ドイツ国民と国家を保護するための大統領令

ドイツ国民と国家を保護するための大統領令の概要

1933年2月28日に発布された「ドイツ国民と国家を保護するための大統領令」は、ナチス党が権力を掌握する過程で重要な役割を果たしました。この大統領令は、ヴァイマル憲法に基づいて国家が公民権を制限し、中央政府が州政府に介入することを認めるものでした。特に、国会議事堂の放火事件を受けて布告されたため、国内では「国会議事堂放火事件令」として知られています。

この大統領令には6条があり、第一条では公民権の停止、第二条と第三条では司法権や立法権、行政権の中央政府への移譲が定められていました。その後の条文では特定の犯罪に対する厳罰規定も設けられており、特に放火罪には死刑が適用されることが明記されていました。これにより、ドイツ国内での法の支配が大きく揺らぐ結果となりました。発効は即時で、国民の権利が広範に制限されることになりました。

背景と影響

この大統領令は、先に発生した国会議事堂放火事件を受けて、国家が緊急事態にあることを理由に制定されました。首相アドルフ・ヒトラーの提案に基づき、大統領パウル・フォン・ヒンデンブルクが発布しました。このように、党権力の拡大を許す環境が整えられ、実際にはナチスに対抗する全ての勢力が危険視されました。結果、1933年3月の国会選挙では、ナチス党に反対する候補者が一斉に逮捕され、その後の体制強化へとつながりました。

また、ヴァイマル共和制下の各州は独自の権限を持っており、その自治を一方的に奪う形で中央集権化が進みました。この動きは、特に地方自治体を抑圧し、国家による支配を強化するものでした。ヒンデンブルク大統領の署名に続き、首相や各大臣も副署し、これが事実上の法的根拠とされました。

法的評価

ナチス政権下、この大統領令は国家の行動に無制限の合法性を与えるものとして評価されました。政治学者エルンスト・フレンケルは、この令を「第三帝国の権利章典」と呼び、法的根拠を根付かせた点を強調しました。この法律のもとでは、政府が「著しく危険」と判断する事態には、急速に反応することが求められ、基本的人権の制限も一時的なものとされるよう解釈されました。

特に、この大統領令を適用することで、共産主義者対策だけでなく、反対勢力全般に対する抑圧が正当化されました。実際には、すべての市民が権利を制限されることとなり、300万人にも上る逮捕者が出る結果となりました。さらに、多くの出版物が禁止され、ナチスに都合の悪い情報の封じ込めが図られました。

結論

この「ドイツ国民と国家を保護するための大統領令」は、単なる法律に留まらず、ナチス政権の全体主義体制を築くための重要な礎となりました。その後の全権委任法とともに、法の支配は崩壊し、多くの基本的人権が無視される時代が始まりました。1947年にはこの罰則が廃止されましたが、その影響は今なお歴史に刻まれています。

もう一度検索