ドイナ・ロタル

1951年9月14日にルーマニアのブカレストに生まれたドイナ・ロタル（Doina Rotaru）は、現代ルーマニア音楽界において、管弦楽や室内楽を中心に多岐にわたる作品を発表し、国際的に高い評価を得ている作曲家です。

彼女の音楽教育は、故郷であるブカレストで始まりました。1970年から1975年にかけて、ブカレスト国立音楽大学でティベリウ・オラフらに師事し、作曲の基礎と技法を深く学びました。その後、1991年からはオランダのアムステルダムに移り、テオ・ローベンディのもとでさらなる研鑽を積んでいます。

学業を修了して間もなく、ロタルはその才能を認められ、ルーマニア国内で最も頻繁に演奏される作曲家の一人となりました。彼女の室内楽作品は、国際的な音楽祭でも注目を集め、1984年にはドイツのダルムシュタットで、1985年にはポーランドのワルシャワとスコットランドのエディンバラで開催された音楽祭で紹介されました。さらにその後4年間には、ドイツのブレーメンやベルリン、ロシアのサンクトペテルブルク、そして日本の広島など、世界各地で演奏される機会を得ました。

教育者としても精力的に活動しており、1991年には母校であるブカレスト国立音楽大学の教授に就任し、和声、対位法、作曲といった専門科目を教えています。また、ドイツのダルムシュタットやアムステルダムのゴーディアムス財団が主催する作曲家ワークショップなどでも客員教授を務め、世界中の若い作曲家たちの指導にあたっています。

研究活動にも従事しており、1986年にはリヴィウ・コムスとの共著で、バロック期のヨハン・セバスティアン・バッハとルネサンス期のジョヴァンニ・ダ・パレストリーナという、対位法の巨匠たちの技法に関する重要な論文を音楽専門誌Editura Muzicalaに発表しています。

ロタルの業績は国内外で高く評価され、数々の栄誉に輝いています。特にルーマニア作曲家連盟からは、1981年、1986年、1989年、1990年、1994年、1997年、2001年と、実に7回もの賞を授与されています。また、1986年にはルーマニア芸術科学アカデミー賞を受賞。国際的には、1994年にドイツのマンハイムで開催されたGEDOK（独墺女性芸術家協会）コンクールで、彼女の交響曲第2番が第1位を獲得するなど、その作品は国際的な舞台でも高い評価を受けています。

彼女の作品は管弦楽と室内楽が中心ですが、声楽や器楽のための作品も多数作曲しています。以下に代表的な作品を挙げます。

クラリネット協奏曲 (1984)
交響曲第1番 (1985)
クラリネットと管弦楽のためのMétabole II (2001)
チェロソナタ (1978)
弦楽四重奏曲第1番 (1981)
メゾソプラノ、フルート、ピアノのためのトリオ (1999)
けしの十字路、ピアノのための (1980)
ピアノのためのソナチネ (1981)

ロタルの作品は、世界各地の主要なオーケストラやアンサンブルによって演奏され、数多くの録音もリリースされています。これにより、彼女の音楽はより多くの聴衆に届けられています。代表的な録音としては、ルドヴィク・バークス指揮のルーマニア放送オーケストラによる交響曲第2番、尺八奏者の岩本由和とバスフルート奏者のピエール＝イヴ・アルトーによるOver time、サクソフォン奏者ダニエル・キエンツィーらによるConcerto, ‘Seven Levels to the Sky’などがあります。

日本との関わりも深く、2001年9月9日にはサントリーホールの国際作曲委嘱シリーズ（No.25）にて、委嘱作品である交響曲第3番などが演奏されました。この演奏会に先立つ9月7日には、彼女自身の講演会も開催されています。また、2008年2月24日には東京オペラシティリサイタルホールにて、ピアニスト井上郷子のリサイタル（#17）が、ロタルと彼女の娘であるディアナ・ロタルの作品展として開催され、委嘱作品を含むピアノ曲が披露されました。

ドイナ・ロタルは、現代ルーマニア音楽を牽引する作曲家として、教育、研究、そして創作活動を通じて、その影響力を国内外に広げています。彼女の革新的な作品は、今後も世界中の聴衆を魅了し続けることでしょう。

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