ドイモイ

ドイモイ：ベトナムの変革

1986年、ベトナム共産党は第6回党大会において「ドイモイ（Đổi mới）」政策を打ち出しました。これは「刷新」を意味し、経済と社会思想の両面における抜本的な転換を目指した政策です。長らく中央集権的な計画経済が中心であったベトナム経済は、ドイモイ政策によって市場経済への移行を模索することになります。

ドイモイの理念と背景

ドイモイ政策は、国民の豊かさ（民富）、国家の繁栄（強国）、民主主義、文明社会の実現を理念として掲げていました。この理念は、中国の改革開放政策と類似しており、社会主義体制下での経済発展と近代化を目指す試みとして位置づけられます。

ベトナムは、人口の約8割が農村部に住む農業国でした。ドイモイ以前、農業は国家政策において軽視されていましたが、改革の端緒は、皮肉にもこの農業分野から始まりました。長年続いた非効率的な集団農業体制は、生産性の低迷を招いていました。農民たちは、厳しい状況下で自らの工夫と努力で生き抜こうとしていました。

農業改革と農民の自立

1988年、ベトナム共産党は政治局第10号決議において、個々の農家を農業生産の基本単位とすることを事実上認めました。これは、集団農業体制の終焉を意味し、農民の土地利用や生産活動に関する自由度が大きく向上しました。

これにより、それまで闇で行われていた「もぐり請負制」が合法化され、農民は自身の努力によって豊かになることを目指せるようになりました。ドイモイ政策は、農民の自立的な行動と、それに呼応する政府の政策転換によって進展していったと言えるでしょう。

ドイモイ後のベトナム

ドイモイ政策導入後、ベトナムの農村部では生活水準の向上が見られました。1980年代と比較して、多くの農民が豊かになったと言われています。しかし、ドイモイ政策は農業改革にとどまりませんでした。工業化、貿易自由化、市場経済の導入といった、幅広い経済改革も進められました。

ドイモイ政策は、社会主義国家における経済改革の成功例として注目されていますが、同時に格差拡大や環境問題など、新たな課題も生み出しました。ドイモイ後のベトナム社会は、発展と課題の両面を併せ持ちながら、現在も変革を続けています。

関係者

ドイモイ政策を推進した中心人物には、チュオン・チンやグエン・ヴァン・リンなどがいます。彼らの指導力と決断が、ベトナムの変革に大きな影響を与えました。

関連概念

ドイモイ政策は、中国の改革開放、ソ連のペレストロイカなど、他の社会主義国の改革運動とも関連しています。しかし、ベトナムのドイモイは、独自の文脈と特徴を持つ改革であり、社会主義市場経済の構築に向けた独自の道を歩んできました。

今後の展望

ドイモイ政策は、ベトナムの近代化と発展に大きく貢献しましたが、その成功は、農民の創意工夫と政府の柔軟な対応、そして世界経済の変化という、様々な要素が複雑に絡み合った結果であると言えるでしょう。ドイモイ政策は、社会主義体制下での経済改革における重要な事例として、今後も世界中で研究され続けるでしょう。 ベトナムの今後の発展は、ドイモイ政策の持続的な発展と、新たな課題への対応にかかっています。

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