ドゥシャン・マカヴェイエフ

ドゥシャン・マカヴェイエフ（1932年10月23日 - 2019年1月25日）は、旧ユーゴスラビア（現セルビア共和国）を代表する映画監督、脚本家です。彼は、政治的な風刺と性的な表現を大胆に組み合わせた前衛的な作風で、国際的に高い評価を得ました。

生い立ちと初期の活動

1932年、ベオグラードで生まれたマカヴェイエフは、ベオグラード大学で心理学を学んだ後、ベオグラード総合芸術アカデミーに進みました。当時のユーゴスラビアでは、アマチュアによる映画制作が盛んであり、彼は映画クラブで数々の実験映画を制作しました。特に、1957年に制作した『アントニーの割れた鏡』は注目を集め、大手映画会社ザグレブ・フィルム社に入社するきっかけとなりました。その後、兵役を経て、短編やドキュメンタリーを中心に制作活動を行い、1966年に初の長編映画『人間は鳥ではない』を発表しました。

国際的な評価と政治的な風刺

1967年の二作目『愛の調書、又は電話交換手失踪事件』は、ロシア映画やフランスのヌーヴェルヴァーグの影響を受けつつ、エロティックな描写と政治的な風刺を巧みに織り交ぜた物語で国際的な注目を集めました。この作品により、マカヴェイエフは東欧映画を代表する監督とみなされるようになり、特にアメリカでは、冷戦下のユーゴスラビアからソ連を批判する作家として評価されました。1968年にはフォード財団の支援を受け、アメリカに滞在しています。

1968年の『保護なき純潔』では、風刺性をさらに強め、1942年のナチス占領下で上映禁止となったセルビア初のトーキー映画の断片に、インタビューや資料映像をコラージュのように組み合わせる手法を駆使しました。この作品はベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞し、彼の国際的な評価を確固たるものとしました。

先鋭化する表現と亡命

1971年の『WR:オルガニズムの神秘』では、コラージュの手法と政治批判がさらに先鋭化しました。この作品は、性科学者ウィルヘルム・ライヒを狂言回しとして、オーガズムを味わう女性や性的マッサージの場面と、ソ連のプロパガンダ映画を組み合わせることで、性的な解放と社会変革の関係性を描きました。スターリンの国家式典と男女の愛撫シーンを対比させる手法は、実験映画の最先端として注目されましたが、同時にソ連への痛烈な批判とも受け止められ、カンヌ映画祭では観客から熱狂的な支持を得ました。しかし、母国ユーゴスラビアでは上映禁止となり、圧力が強まる中でマカヴェイエフはフランス、そしてアメリカへと政治亡命を余儀なくされました。

1974年の『スウィート・ムービー』では、露骨な性描写にグロテスクなユーモアが加味され、砂糖まみれの男女の性交やチョコレート風呂といった衝撃的なシーンが描かれました。また、第二次大戦時のベオグラードの廃墟や戦没者の映像が挿入され、食・性・死の交感関係を描いた作品として、アメリカでカルト的な人気を博しました。

後期の活動と晩年

その後、マカヴェイエフは寡作となり、1996年の『デンマークの少女は全てを見せる』が最後の作品となりました。1981年の『モンテネグロ』と1985年の『コカコーラ・キッド』では、カンヌ国際映画祭のパルムドールにノミネートされています。

2019年1月25日、マカヴェイエフはベオグラードで亡くなりました。享年86歳。

主な作品

1966: 『人間は鳥ではない』
1967: 『愛の調書、又は電話交換手失踪事件』
1968: 『保護なき純潔』
1971: 『WR:オルガニズムの神秘』
1974: 『スウィート・ムービー』
1981: 『モンテネグロ』
1985: 『コカコーラ・キッド』
1989: 『マニフェスト』
1993: 『ゴリラは真昼、入浴す。』
1995: 『A Hole in the Soul』
* 1996: 『デンマークの少女は全てを見せる』

マカヴェイエフの作品は、実験的な映像表現と社会的なタブーに挑戦する姿勢で、映画史に大きな足跡を残しました。彼の作品は、現在でも多くの映画ファンや研究者にとって重要な研究対象となっています。

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