ドゥームズデイ・ブック

ドゥームズデイ・ブック：イングランド征服後の世界初の土地台帳

1066年、ノルマンディー公ウィリアムによるイングランド征服は、イギリスの歴史における転換期となりました。その征服後、ウィリアム1世は徹底した国土調査を実施し、その結果を記録したものが『ドゥームズデイ・ブック』（Domesday Book）です。これは世界最古の土地台帳として知られ、イングランドの社会、経済、政治を理解する上で極めて重要な一次史料となっています。

「ドゥームズデイ」の名称の由来

「ドゥームズデイ」（Doomsday）とは、キリスト教における「最後の審判」を意味します。この台帳が「ドゥームズデイ・ブック」と呼ばれるようになったのは12世紀頃からです。全ての土地所有者の財産を明らかにするという意味で、最後の審判になぞらえられたと考えられています。スペリングのdomeは「家」を意味する単語で、そこから土地の台帳を意味するようになったという説もあります。

台帳の内容と歴史的意義

『ドゥームズデイ・ブック』は、単なる土地の登記簿ではありません。イングランド全土の土地、家畜、建物、住民、さらには教会や修道院に至るまで、詳細な調査結果が記録されています。これは、ウィリアム1世による課税システム確立のために実施されたものでした。当時の社会構造や経済状況を把握する上で、他に類を見ない貴重な情報源となっています。

この台帳の精緻な調査は、当時の技術水準から見ても画期的でした。各土地の面積、生産力、所有者、住民数、家畜の種類や数、さらには教会や製粉所の有無といった情報まで網羅されており、当時のイングランド社会の実態を克明に映し出しています。

現代における『ドゥームズデイ・ブック』

『ドゥームズデイ・ブック』は、現在でもイギリス政府によって管理・保存されています。歴史研究者にとって必携の史料であり、中世イングランド史研究において不可欠な存在となっています。デジタル化も進み、インターネットを通じて閲覧可能な部分もあります。ただし、完全な閲覧には有料サービスの利用が必要となります。

関連プロジェクト：ドゥームズデイ・プロジェクト

1984年から1986年にかけて、本書の出版から900年を記念して、英国放送協会（BBC）を中心に「ドゥームズデイ・プロジェクト」が実施されました。これは、レーザーディスクを用いた教育用プログラムで、イギリス全域の地図を中心とした「コミュニティ・ディスク」と1981年の国勢調査データを中心とした「ナショナル・ディスク」の2枚のディスクで構成されていました。このプロジェクトは、現代技術を駆使して歴史資料を広く一般に公開するという試みとして注目されました。当時としては画期的なマルチメディア技術の活用は、後のデジタルアーカイブの先駆けと言えるでしょう。

まとめ

『ドゥームズデイ・ブック』は、単なる土地台帳にとどまらず、中世イングランド社会の全貌を理解する上で必要不可欠な史料です。その詳細な記録と歴史的意義は、現代においても高く評価されており、歴史研究のみならず、社会科学、地理学など様々な分野において重要な役割を果たしています。そのデジタル化への取り組みは、歴史資料の保存と公開における現代的なアプローチを示すものでもあります。今後も、この貴重な資料の研究は、イギリスの歴史理解を深める上で重要な役割を担い続けるでしょう。

もう一度検索