ドクガ

ドクガ（Artaxa subflava）

ドクガは、昆虫綱チョウ目ドクガ科に分類されるガの一種、Artaxa subflava、およびドクガ科に属する有毒なガの総称として用いられます。日本国内では北海道から九州まで、広い範囲に分布しています。

形態

成虫は比較的小型で、オスの体長が1.4〜1.7センチメートル程度、メスはやや大きく1.9〜2.2センチメートルほどになります。翅は全体的に褐色をしており、特に前翅には濃い色の縦縞模様があり、先端近くには黒い斑点が二対確認できます。

幼虫は黒っぽい体色をしていますが、背中には鮮やかなオレンジ色の筋模様が入るのが特徴です。孵化後しばらくは毒針毛を持ちませんが、成長して二齢幼虫になると、体に鋭い毒針毛を持つようになります。この毒針毛は非常に微細で折れやすく、皮膚に刺さると炎症を引き起こします。成虫や蛹そのものには毒腺はありませんが、幼虫の毒針毛が、成虫では特に尾部に、蛹では繭の表面に付着したまま残るため、これらの段階でも触れると毒針毛による被害を受ける可能性があります。

毒性

ドクガの毒針毛に皮膚が触れると、数十分から数時間後に赤く腫れあがり、強いかゆみや痛みを伴う皮膚炎（かぶれ）を発症します。掻きむしると毒針毛がさらに広がり症状が悪化することがあります。このかゆみや炎症は非常に強く、場合によっては数週間にわたって続くことがあります。

生態

主に里山や二次林などに生息していますが、都市部の公園や庭木などでも見られることがあります。成虫が発生して活動するのは、おおよそ6月から8月にかけての夏季です。

ドクガの幼虫は植物の葉を食べる植食性で、カキやサクラといった果樹、コナラなどの広葉樹、ハマナスやイタドリなど、多様な植物を食草とします。一方、成虫は口器が退化しており、何も食べずに過ごします。

繁殖は卵生で行われます。メスは産卵する際、自身の尾部に付着した毒針毛を卵塊に塗りつけるようにして保護します。このため、孵化直後の幼虫もすでに親から受け継いだ毒針毛が付着しています。幼虫は秋に成長した後、集団で越冬します。

ドクガの最も特徴的な生態は、その一生を通じて毒針毛を持つことです。多くの蛾の仲間は、幼虫期に毒を持っていても成虫になると毒がなくなることが多いのですが、ドクガは異なります。幼虫期に発達させた毒針毛は、蛹になる際には繭の周囲に張り巡らされ、羽化した成虫の体にも残ります。そして、産卵時には卵を守るために利用されるというように、卵、幼虫、蛹、成虫と、生涯にわたって毒針毛を身にまとい、捕食者からの防御に役立てています。これは近縁のチャドクガなどにも共通する特徴です。

人間との関係

ドクガは、その幼虫が様々な植物の葉を食べることから、農業や園芸における害虫として認識されています。特に果樹や公園の樹木などが食害を受けることがあります。

さらに深刻な問題となるのは、人間が毒針毛に触れることによる健康被害です。幼虫や成虫の死骸、脱皮殻、繭などに直接触れるだけでなく、風に乗って飛散した毒針毛が付着することでも皮膚炎を発症します。洗濯物に付着したり、屋外に干した布団に取り付いたりすることもあります。

もしドクガの毒針毛に触れてしまった場合は、患部をかきむしらないことが重要です。掻くことで毒針毛が皮膚の奥に入り込んだり、周囲に広がったりするためです。応急処置としては、粘着力の弱いセロハンテープなどを患部に貼り付けてそっと剥がし、付着した毒針毛を取り除くのが有効です。その後、流水で洗い流し、抗ヒスタミン剤などのかゆみ止め軟膏を塗布すると症状が和らぐことがあります。症状が重い場合や改善が見られない場合は、皮膚科医の診察を受けることをお勧めします。

ドクガを駆除した場合、死骸をそのまま放置すると風で毒針毛が飛散する恐れがあります。安全のためには、死骸を密閉できる袋に入れるか、地面に深く埋めるなどの適切な処理を行うことが望ましいです。

関連情報

チャドクガ

参考文献

『原色ワイド図鑑3　昆虫I』、学習研究社、1984年
『小学館の図鑑NEO　昆虫』、小学館、2002年
福田晴夫ほか　『昆虫の図鑑 採集と標本の作り方 - 野山の宝石たち』　南方新社、2005年
木野田君公　『札幌の昆虫』　北海道大学出版会、2006年

外部リンク

List-MJ 日本産蛾類総目録

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