ドニャ・パス号

ドニャ・パス号の概要

ドニャ・パス号（MV Doña Paz）は、フィリピン国内の航路で運航していた貨客船で、その歴史は波乱に満ちたものです。元々は1963年に日本の尾道造船で建造され、ひめゆり丸として琉球海運の航路で活躍していましたが、1975年にフィリピンの船会社に転売されました。1979年には火災に遭い一度廃棄処分となったものの、1981年に大規模な改造を経てドニャ・パス号として再運航を始めました。この際に客室が大幅に増設され、定員も3倍以上に増加しました。

1987年の事故

1987年12月20日、クリスマス休暇を控えた時期に、ドニャ・パス号はレイテ島のタクロバンからマニラへ向かう途中、定員を大きく超える乗客と貨物を積載していました。その際、ミンドロ島とパナイ島の間にあるタブラス海峡で小型タンカーのヴェクター号と衝突。両船とも救助信号を発信する暇もなく、衝撃でヴェクター号から漏れたガソリンが引火し、炎上が始まりました。

ドニャ・パス号の乗客は3262人から4162人と推測され、ほぼ全員が焼死または溺死し、事故の生存者はわずか22人にとどまりました。加えて、乗船名簿に記載されていない乗客が多かったため、正確な死者数は判明していませんが、公称では1575人という数があげられています。しかし、海運会社の発表では4375人ともいわれており、これが事実ならば史上最悪の海難事故となります。

異常な状況

事故当時、乗組員たちはすでにデッキでパーティーを楽しんでいたり、休憩所でテレビを見ていたため、衝突発生時には適切な対応が取れなかった本来思い描いていた操船ミスや高重心化などの懸念があったと言います。また、事故の原因が不明なことから、詳細な調査が行われなかったことも影響しています。ひとしきり火事が収束した後、海に浮かんでいたわずか生存者が救助された結果、ドニャ・パス号の乗客は全員が犠牲となりました。

残骸の発見

2019年4月13日、ドニャ・パス号の残骸は海底500メートルで探査船ペトレルによって発見されました。残骸は直立しており、比較的良好な状態で保存されていました。同様に、衝突したヴェクター号も2200メートル離れた海底で発見されています。これらの発見は、事故の悲劇的な歴史を再確認するものとなりました。

最後に

ドニャ・パス号はその悲劇的な事故を通じて、フィリピンの海運業界における安全基準や管理体制の見直しを促す引き金ともなりました。事故があった海域では現在も多くの教訓を生かし、今後の安全な航行を目指しています。

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