ドミティアヌス

ドミティアヌス：ローマ帝国第11代皇帝

51年10月24日、ローマで誕生したティトゥス・フラウィウス・ドミティアヌスは、フラウィウス朝の最後の皇帝として81年から96年までローマ帝国を統治しました。父は初代皇帝ウェスパシアヌス、兄はティトゥスです。彼の治世は、当初は穏やかなものだったものの、晩年には多くの元老院議員を処刑、追放するなど、暴虐政治に陥り、そのため長らく暴君として評価されてきました。しかし、近年の歴史学研究では、彼の業績が見直されつつあります。

激動の時代と帝位継承

ドミティアヌスの誕生は、四皇帝時代と呼ばれるローマ帝国の混乱期でした。父ウェスパシアヌスは、この混乱期に頭角を現し、やがて皇帝の座に就きます。ドミティアヌス自身は、兄ティトゥスのユダヤ遠征には参加しておらず、政治の中枢からは距離を置いていました。70年には、ドミティア・ロンギナと結婚、その後、皇太子として神官などの栄誉職を歴任しますが、帝国の行政官職には就きませんでした。そのため、多くの人々は彼を次期皇帝候補とは考えていませんでした。しかし、兄ティトゥスの急死を受け、ドミティアヌスは帝位を掌握します。兄の死期を早めたとの噂も流れましたが、真相は闇の中です。

治世：初期の穏健さから暴虐政治へ

ドミティアヌスの治世初期は穏やかなものでした。ブリタニア属州総督アグリコラのグラウピウス山の戦勝、ゲルマニアにおけるシャッテン族との戦闘勝利など、軍事的な成功も見られました。しかし、次第に彼の統治は暴虐さを増していきます。多くの元老院議員が処刑や追放の憂き目に遭い、ユダヤ人やキリスト教徒への迫害も伝えられています。ただし、近年の研究では、彼による積極的な迫害はなかった可能性も指摘されています。スエトニウスの『ローマ皇帝伝』では教養があり優雅な青年として描かれていますが、晩年の彼の振る舞いは、この記述とはかけ離れたものでした。

最期：暗殺とその後

96年、ドミティアヌスは暗殺されます。暗殺計画は、元老院議員や元側近、そして姪であるユリア・ドミティアの執事ステファヌスらによって企てられました。占星術によって自分の死期を予感していたドミティアヌスは警戒していましたが、自邸でステファヌスらによって暗殺されました。伝えられるところによると、ステファヌスはドミティアヌスを8度も刺したと言われています。彼の遺体は粗末に扱われましたが、乳母により火葬され、姪の遺灰と混ぜ合わされました。後継者がいなかったため、元老院はネルウァを新たな皇帝に選びました。ドミティアヌスの死後、彼の業績は抹消されそうになりましたが、近年の研究により、彼の治世における様々な側面が再評価されつつあります。彼の統治は、ローマ帝国の歴史における重要な転換期の一つであり、現在でも様々な議論が続けられています。

歴史的評価：暴君から改革者へ？

ドミティアヌスは長らく暴君として描かれてきました。それは、彼の晩年の残虐な行為が大きく影響しています。しかし、近年の研究では、彼の治世における公共事業や経済政策などの積極的な側面も注目されています。例えば、彼はローマ市内の整備や拡大に力を入れており、その功績は無視できません。また、辺境地域の防衛にも尽力したとされています。これらの業績は、彼の暴君としてのイメージとは対照的に、有能な皇帝としての側面を示唆しています。彼の評価は、現在もなお歴史家たちの間で議論の的となっています。彼の治世は、ローマ帝国の盛衰を理解する上で欠かせない重要な時代であり、これからも様々な角度からの研究が続けられるでしょう。

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