ドライサンプ

ドライサンプ方式：安定したオイル供給のための高度な潤滑システム

ドライサンプ方式は、レシプロ式内燃機関における潤滑方式の一種です。一般的なウェットサンプ方式と異なり、エンジン下部のオイルパンに溜まったオイルを、ポンプによって強制的に回収し、専用のオイルリザーバタンクに貯蔵します。その後、このオイルを再びエンジン内部に供給する仕組みです。

ウェットサンプ方式との比較

ウェットサンプ方式では、使用済みのオイルは重力によってオイルパンに戻り、フィードポンプによって再利用されます。しかし、この方式ではオイルの回収量がエンジン状態や車両姿勢に左右されやすく、オイル圧の変動が生じることがあります。特に、激しい旋回時や急加速・減速時には、オイルパン内のオイルが偏り、フィードポンプが空気を吸い込んでしまう（エア噛み）可能性があり、オイル供給が不安定になるケースがあります。

これに対して、ドライサンプ方式ではスカベンジポンプ（回収ポンプ）がオイルを強制的に回収するため、エンジン状態や車両姿勢に関係なく安定したオイル供給を確保できます。スカベンジポンプはフィードポンプよりも高い能力を持つため、リザーバタンクには常に十分なオイル量を維持し、安定したオイル圧を供給することが可能です。

ドライサンプ方式のメリット

ドライサンプ方式には、次のようなメリットがあります。

安定したオイル供給： 高いGがかかる状況下でも、安定したオイル供給を確保できます。そのため、レーシングカーや航空機など、激しい運動を行う機械に最適です。
オイルタンク容量の増加： リザーバタンクは独立しているため、オイルパンとは別に大容量のオイルタンクを設置できます。これにより、オイル交換サイクルを長くしたり、オイルクーラーなどの冷却装置を追加したりすることが容易になります。
エンジンの低重心化： オイルパンを薄くできるため、エンジンの重心位置を下げ、ハンドリング性能の向上に貢献します。

これらの利点から、ドライサンプ方式は、高性能車、レーシングカー、航空機エンジンなどに多く採用されています。

ドライサンプ方式のデメリット

一方で、ドライサンプ方式には次のようなデメリットもあります。

複雑な構成： ウェットサンプ方式に比べて構成が複雑で、部品点数が増加します。
コスト増加： 部品点数の増加に伴い、製造コストが高くなります。
オイル漏れリスク： オイルラインやフィッティング部の増加により、オイル漏れが発生するリスクが高まります。

ドライサンプ方式の種類

ドライサンプ方式には、大きく分けて2種類があります。

1. オイルパン内蔵型： ウェットサンプと同等のオイルパンにスカベンジポンプを内蔵したタイプです。ポルシェやフェラーリの量産車などに採用されています。
2. 外部設置型： 容量の小さいオイルパンを使用し、スカベンジポンプをエンジン外部に設置するタイプです。信頼性や部品点数の問題から、市販車への採用はほとんどありません。

さらに、オイルパンにタンクを設置し、重力とポンプによるオイル回収を組み合わせたセミドライサンプ方式もあります。ポルシェ911や日産GT-Rなど、一部の市販車にも採用されています。

オートバイと航空機への応用例

オートバイでは、ドライサンプ方式によりオイルパンを薄くすることで、最低地上高の確保に役立ちます。また、2輪車は4輪車に比べて車体の傾きが大きいため、安定したオイル供給に効果を発揮します。

航空機では、離着陸時や旋回時におけるGの影響を軽減するために、ほとんどのレシプロエンジンでドライサンプ方式が採用されています。特に、星型エンジンや倒立型エンジンでは、ウェットサンプ方式ではオイル供給が困難なため、ドライサンプが不可欠です。

まとめ

ドライサンプ方式は、複雑な構造とコスト増加というデメリットがありますが、安定したオイル供給という大きなメリットがあります。そのため、高性能車や航空機など、高い信頼性と安定性が求められる用途に最適な潤滑システムと言えます。

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