ドラゴンフライ (検索エンジン)

ドラゴンフライ・プロジェクトとは

ドラゴンフライ・プロジェクトは、Googleが中国の検閲体制に準拠したインターネット検索エンジンを開発しようとした試みでした。このプロジェクトは、Googleがこれまで標榜してきた「情報を自由に提供する」という理念と、中国市場への参入というビジネス上の利益との間で、大きな葛藤を生み出した事例として知られています。

プロジェクトの発覚と内部告発

2018年8月、The Interceptというメディアが、Googleの従業員が書いた内部メモをリークしたことで、このプロジェクトの存在が公になりました。この報道によると、ドラゴンフライは中国政府が検閲対象とする情報を検索結果から除外するように設計されていたことが明らかになりました。

また、この検索エンジンは、ユーザーの検索履歴や電話番号と紐付け、ユーザーのプライバシーを侵害する可能性も指摘されました。さらに、検索結果が検閲された場合でも、ユーザーにその事実を通知しない仕様になっていたことも問題視されました。

これらの情報が公になると、Googleの従業員や人権団体からの批判が相次ぎ、Google社内でも大きな議論を呼ぶことになりました。

プロジェクトの経緯

Googleは、中国市場への再参入を模索する中で、中国政府の検閲要請に応じた検索エンジンの開発を試みました。しかし、このプロジェクトは、Googleの従業員からの強い反対に遭いました。

従業員たちは、このプロジェクトがGoogleの企業理念に反し、中国政府による人権侵害を助長すると主張しました。彼らは、公開書簡や署名活動を通じて、プロジェクトの中止を求めました。

2018年11月には、数百人のGoogle従業員が、このプロジェクトに対する反対声明に署名しました。また、アムネスティ・インターナショナルなどの人権団体も、このプロジェクトを強く批判しました。

当初、Googleの幹部は、ドラゴンフライが「試験的なもの」であり、「まだ初期段階である」と述べていました。しかし、従業員からの批判の高まりを受けて、プロジェクトは「事実上停止された」と報じられました。その後、2019年7月に、Googleは正式にドラゴンフライ・プロジェクトを終了すると発表しました。

Googleと中国の関係

Googleと中国の関係は、これまでにも様々な問題がありました。Googleは2006年に中国市場に参入しましたが、中国政府の検閲要請に反発し、2010年に中国本土での検索サービスを停止しました。その後、中国市場への再参入を模索する中で、ドラゴンフライ・プロジェクトが立ち上げられました。

Googleは以前、中国の検閲に屈して検索結果を操作することよりも、情報を全く提供しないことの方が、Googleの使命に反すると主張していました。しかし、ドラゴンフライ・プロジェクトは、Googleが中国市場の利益のために自社の原則を曲げようとしていると批判されました。

プロジェクトのリスクとリターン

中国のインターネットユーザー数は、2010年から2018年の間に大幅に増加しました。Googleにとって、これは中国市場への再参入が大きなビジネスチャンスとなることを意味していました。しかし、中国にはBaiduやSogouといった強力な検索エンジンが存在しており、Googleがこれらの競合を打ち破ることができるかどうかは不透明でした。

また、ドラゴンフライは、ユーザーの検索履歴を追跡し、中国政府に情報を提供するリスクも指摘されました。このプロジェクトが実現した場合、Googleは中国政府の検閲に加担し、人権侵害を助長する可能性があるという懸念も提起されました。

プロジェクトに対する反応

ドラゴンフライ・プロジェクトは、Googleの従業員だけでなく、政治家や人権団体からも厳しい批判を受けました。アメリカのマイク・ペンス副大統領は、このプロジェクトが中国共産党の検閲を強化し、中国の顧客のプライバシーを危険にさらすだろうと述べ、プロジェクトの開発終了を求めました。

マーク・ウォーナー上院議員も、このプロジェクトを批判し、中国が「情報管理の取り組みに欧州企業を利用する」ことに成功したと述べました。また、アメリカ統合参謀本部議長のジョセフ・ダンフォードも、Googleが中国の規範や基準に従うことで、世界秩序を享受できるのかどうか疑問を呈しました。

一方で、Googleの従業員の一部は、このプロジェクトがGoogleのミッションに沿っており、中国におけるさまざまなアプローチがどのように機能するかを知る上で価値があると述べ、プロジェクトの継続を求めました。

プロジェクトの終焉

最終的に、Googleはドラゴンフライ・プロジェクトを中止しました。しかし、Googleは、将来的にも中国の検閲を伴う取り組みを一切考えないとは確約していません。Googleは、中国市場に戻ることを検討する際には、主要な利害関係者との協議を行うとしています。

ドラゴンフライ・プロジェクトは、テクノロジー企業がビジネス上の利益と人権尊重という倫理的な課題に直面した場合の難しさを浮き彫りにしました。このプロジェクトは、Googleの企業理念と社会における責任について、改めて議論を呼び起こしました。

もう一度検索