ドラフトチャンバー

ドラフトチャンバー

ドラフトチャンバーは、化学実験室などで有害な気体、揮発性の有害物質、または有害微生物を取り扱う際に、作業者の安全を確保するための重要な設備です。これは、発生する有害物質を作業空間から隔離し、外部へ安全に排出する役割を持つ局所排気装置の一種です。

一般的には「ドラフト」や「ドラフト装置」と呼ばれ、短縮して「排チャン」「ドラチャン」などとも称されます。英語ではfume hoodやfume cupboard、あるいは単にhoodと呼ばれており、国際的な環境安全教育の観点から「ヒュームフード」という呼称が推奨されることもあります。

構造と機能

多くのドラフトチャンバーは、水道やガスなどの配管を備えた大型の箱状をしています。前面には上下にスライドするガラス窓が設けられており、この窓を適切な高さに開けて、手を入れて実験操作を行うことが可能です。

基本的な機能は有害な空気の排気ですが、中には排気と同時に給気を行うことで室内の急激な温度変化や気圧変化を防ぐ機能を持つものも存在します。さらに、排気を浄化する機構や、万一の火災に備えた自動消火機能を持つ高性能なモデルもあります。内部での爆発が発生した場合でも、前面ガラスが飛散しにくいように設計されたものもあります。

多様な種類

取り扱う物質や実験内容に応じて、ドラフトチャンバーには様々なタイプが存在し、本体の構造や内部の材質が重要な選択基準となります。

主な材質

塩化ビニル: 耐薬品性に優れ、比較的安価です。
フェノール樹脂: 耐熱性や機械的強度に優れています。
ステンレス鋼: 錆びにくく清掃が容易で、幅広い薬品に対応できます。
セラミックス: 非常に高い耐薬品性・耐熱性を持ち、過酷な条件下で使用されます。
鉛: かつて使用されましたが、環境負荷の観点から現在はほとんど用いられません。

構造による分類

標準タイプ: 水道、ガス、電気を供給し、有害ガスを捕集して室外へ排気する一般的な構造です。
スクラバー付き: 排気ガスを洗浄し、有害成分を回収・除去してから排出する構造です。
エアフィルタ付き: 高性能フィルタを備え、特に病原体などの微生物を捕集・封じ込める構造です。（安全キャビネットを参照）

排気ファンにも様々な種類があり、実験室の換気計画に合わせて最適なファンを選定したり、既存のファンを交換したりすることも可能です。大型のファンは強力な排気を実現する一方、設置場所や台数によっては、部屋全体の気圧が大きく下がり、ドアが開けにくくなるなどの影響が出ることもあります。

設置と法規制

ドラフトチャンバーの設置にあたっては、取り扱う化学物質や実験プロセスを十分に考慮し、適切な材質や構造の機種を選定することが極めて重要です。そのため、専門知識を持つ業者と綿密な打ち合わせを行い、設計・施工を進める必要があります。

日本の専門業者には、島津理化、ダルトンなど、多くの実績を持つ企業があります。

また、日本国内では、労働安全衛生法に基づき、特定化学物質障害予防規則や有機溶剤中毒予防規則などの法令で、有害物質の取り扱いに関する基準が定められています。ドラフトチャンバーを適切に設置・使用することは、これらの法規制を遵守するために不可欠です。

安全な利用方法

ドラフトチャンバーは、試薬を開封する際や溶媒を加熱するなど、有毒なガスや悪臭が発生する可能性のある作業を行う際に必ず使用します。

実験に使用する装置や機器は、あらかじめ前面ガラス窓の内側に設置してから作業を開始します。

本体の外部パネルには操作スイッチがあり、ここから内部照明の点灯、排ガスファンの運転、水道・ガスの供給開始・停止などを制御できます。

前面のガラス窓は、十分な吸気風量を確保しつつ、作業者が安全かつスムーズに実験操作を行えるよう、適切な高さに調整して使用することが重要です。窓を開けすぎると吸気速度が低下し、有害物質が外部に漏れ出すリスクが高まります。

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