ドロシー・ニッカーソン

ドロシー・ニッカーソン：色彩科学のパイオニア

ドロシー・ニッカーソン(1900-1985)は、20世紀の色彩科学に革命をもたらしたアメリカを代表する色彩学者です。色の品質管理、測色法の技術的な応用、色刺激と色知覚の関連性、光源の標準化、そして色許容範囲の仕様策定など、多様な分野にわたる彼女の貢献は、現代の色彩科学の基礎を築く上で非常に重要な役割を果たしました。

生い立ちと教育

1900年、マサチューセッツ州ボストンで生まれたニッカーソンは、ボストン大学を経てジョンズ・ホプキンス大学で学びました。さらにハーバード大学、ジョージ・ワシントン大学、アメリカ合衆国農務省の大学院などで継続的に学び続け、当時発展著しかった色彩科学に深い関心を抱くようになりました。

マンセル・カラー・カンパニーとアメリカ合衆国農務省

1921年、ニッカーソンはA.E.O.マンセルの研究所で助手兼秘書としてキャリアをスタートさせます。マンセル・カラー・カンパニーでの勤務を経て、1927年には[アメリカ合衆国農務省]に入省。1964年に引退するまで、同省に勤務しました。USDA在籍中は、産業用途に用いられ始めた色彩科学と技術に携わり、国際的な基準が確立されていない状況下で、農業や工業における色彩科学の技術開発と応用を推進しました。

主要な業績

ニッカーソンの業績は多岐に渡ります。以下に、特に重要な貢献をいくつか紹介します。

農産物の色彩品質管理: 綿花などの農産物の色の品質を客観的に評価するための方法を研究し、ディスクカラー混合物の使用や、そのデータをCIE 1931色空間に変換する手法を開発しました。これは、農産物の品質管理に革新をもたらした重要な貢献です。

光源の標準化: 色の品質を正確に評価するためには、標準的な光源を用いることが不可欠です。ニッカーソンは、色の視覚的評価のための標準光源の開発に尽力し、照明の演色性を定義するための標準的な手法の確立にも貢献しました。

色許容範囲の仕様: 工業製品において、色の微妙な違いを許容範囲内で管理することは非常に重要です。ニッカーソンは、マンセルの色相、彩度、明度のスケールに基づいた、工業用初の色の差の公式を発表しました。その後も、ニューホールとの共同研究、さらにはアシスタントと共にアダムス-ニッカーソン-スタルツの式を発表するなど、色差式に関する研究開発を継続的に行い、現在のCIELAB色空間や色差式につながる基礎を築きました。

修正マンセル表[色]]系: ニッカーソンは、アメリカ光学会]の技術委員会に参加し、マンセル表[[色系とCIE表色系の定義に関する研究に大きく貢献しました。この委員会の最終報告書「修正マンセル表色系」は、現在のマンセル表色系の基礎となっています。彼女は、現在も使用されているCIE色度図のマンセルカラーのプロットを作成した人物でもあります。

* カラーチャート: ニッカーソンは、土壌の色を評価するためのマンセル土壌カラーチャートの開発にも関与しました。このチャートは現在でも広く使用されています。また、園芸用のニッカーソンカラーファンも発行しています。さらに、OSA Uniform Color Scalesの開発にも25年以上貢献し、その詳細な歴史を記しました。

協会活動と受賞歴

ニッカーソンは、[アメリカ光学会]、[国際照明委員会]の米国国内委員会、ISCC(Inter-Society Color Council)、国際色彩学会(AIC)、北米照明工学会(IESNA)など、数多くの色彩関連団体に所属し、国際的な活動にも積極的に参加しました。

その功績から、ISCCの生涯会員、ゴッドラブ賞、IESNA金メダル、AICジャッド賞など、数々の賞を受賞しています。1983年には、彼女の功績を称えるニッカーソン・サービス賞が創設されました。

まとめ

ドロシー・ニッカーソンは、色彩科学の多様な分野にわたる貢献を通じて、この分野の発展に計り知れない貢献を果たした人物です。彼女の研究と開発は、現代の色彩科学、そして私たちの生活に深く影響を与え続けています。彼女の生涯と業績は、未来の色彩科学研究者にとって、常に学ぶべき模範となるでしょう。

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