ドロシー・ワーズワース

ドロシー・ワーズワース：詩人、日記作家、そして兄への深い愛情

1771年クリスマスの日に、北西イングランドで生まれたドロシー・ワーズワースは、イギリスを代表するロマン派詩人ウィリアム・ワーズワースの妹として知られています。詩人としての才能を持ちながら、日記作家としても優れた記録を残し、その作品は現在も高い評価を受けています。時に恋慕の情とさえ表現される、兄ウィリアムとの深い絆は、彼女の生涯における重要なテーマであり、作品にも深く反映されています。

ドロシーとウィリアムは、強い愛情で結ばれた兄妹でした。共に生活することを長年夢見ていた二人は、1799年12月、グラスミアに居を構え、共同生活を始めます。この生活は、ウィリアムの詩作に大きな影響を与えたとされています。晩年になっても、ドロシーはウィリアムの詩を完璧に記憶していたというエピソードは、二人の深い精神的な結びつきを物語っています。彼女の鋭い観察眼と記憶力は、ウィリアムの創作活動に多大なる貢献を果たしたと考えられています。

ドロシーは熱心な自然愛好家でもありました。彼女の詳細な日記には、植物や風景に対する深い観察眼と愛情が溢れています。植物への造詣の深さは、翻訳者である藤井綏子氏も共感を覚えるほどです。日記には、兄ウィリアムへの尊敬と愛情、そして強い執着が繰り返し記述されており、特にウィリアムの新婚旅行に同行した際の記述においてその感情は顕著に現れています。その日記からは、単なる兄妹愛を超えた、複雑で深遠な感情が読み取れます。

ドロシーの日記は、当時の社会状況や自然環境、そして兄妹の日常生活を克明に記録しており、貴重な歴史資料として高く評価されています。彼女の言葉を通して、19世紀初頭のイギリス社会やロマン派文学の隆盛を垣間見ることができます。また、その日記は、単なる記録にとどまらず、ドロシー自身の内面世界を反映する文学作品としての側面も持ち合わせています。兄ウィリアムの影に隠れがちではありますが、ドロシー自身も才能豊かな詩人、日記作家として、独自の文学的足跡を残したと言えるでしょう。

レジナルド・ブライス著『ドロシー・ワーズワースの日誌』（北星堂書店、1994年）は、彼女の生涯と作品を理解する上で重要な一冊です。この書籍を通して、ドロシー・ワーズワースという女性、そして彼女の残した貴重な記録をより深く知ることができるでしょう。彼女の生きた時代、そして彼女を取り巻く人々、自然、そして何より兄ウィリアムとの関係性を理解することで、ドロシー・ワーズワースの作品や人生観への理解は一層深まることでしょう。彼女の生涯は、ロマン派文学を理解する上で欠かせない、重要なピースとなっています。

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