ドン・キホーテ放火事件

概要

2004年（平成16年）12月、埼玉県さいたま市内のディスカウントストア「ドン・キホーテ」をはじめ、複数の商業施設で相次いで発生した一連の放火事件を指します。特に12月13日に発生したドン・キホーテ浦和花月店での火災は甚大で、従業員3名が焼死し、8名が負傷するという痛ましい結果となりました。この事件はマスコミで大きく報じられ、その背景にある防火体制の不備などが問題視されました。

一連の犯行は、ドン・キホーテ店舗での3件に加え、同時期に発生した市内のサティ（現在のイオン）やイトーヨーカドーでの放火事件（合計4件）も同一犯によるものであることが、後に被疑者の逮捕によって明らかになりました。

各事件の発生経緯

一連の事件は、短期間のうちに以下の順序で発生しています。

2004年12月13日夕方、さいたま市浦和区のサティ北浦和店（当時）のトイレでトイレットペーパーに放火。小さな火災が発生しましたが、同日中に同じ場所で再び放火が試みられました。
同日夜遅く、さいたま市緑区のドン・キホーテ浦和花月店で寝具売場に放火。この火災により店舗は全焼し、従業員3名が亡くなる惨事となりました。
さらに同日深夜、見沼区のドン・キホーテ大宮大和田店で衣料品に放火。こちらは早期に発見され、小さな被害にとどまりました。
12月15日午後、ドン・キホーテ大宮大和田店で再び放火が発生。この際、店員の制止を振り切って逃走した人物が重要参考人として浮上し、その日のうちに逮捕されることとなります。
被疑者逮捕に先行して、同日夕方にはさいたま市大宮区のイトーヨーカドー大宮店（当時）のトイレで放火が発生。
また同日夕方、北浦和サティでも再び放火が発生しました。

これらの事件のうち、ドン・キホーテ浦和花月店での火災が最も被害が大きく、特に注目されました。

ドン・キホーテ浦和花月店での惨事

2004年12月13日20時50分頃に発生した浦和花月店の火災では、犯人は放火後すぐに逃走したと考えられています。出火場所が入口から離れた場所であったこと、避難経路に課題があったとされる防火体制、そしてドン・キホーテ特有の「圧縮陳列」が商品の燃え移りを助長し、火はまたたく間に燃え広がりました。一度は店内から避難したアルバイト従業員3名が、逃げ遅れた客がいないか確認するため店内に戻った後、脱出できずに焼死しました。3人の遺体は同じ場所で発見されています。この事件を受けて、ドン・キホーテの経営者に対し、従業員を再突入させた判断や圧縮陳列の安全性について、厳しい追及がなされました。

大宮大和田店での事件

大宮大和田店では、12月13日と12月15日の2回、放火事件が発生しました。特に2回目の事件では、警備体制が強化されていたにもかかわらず、犯人が再び放火し逃走を図りました。この逃走の際の不審な行動が、犯人の特定と逮捕につながる重要な手がかりとなりました。

被疑者の逮捕と裁判

12月15日の大宮大和田店での再度の放火後、現場から立ち去る際に不審な行動をとった40歳代の女性が捜査線上に浮上。この女性は買い物かごを持ち出したとして、まず窃盗容疑で逮捕されました。当初、女性は放火、窃盗いずれの容疑も否認していました。

捜査が進む中で、ドン・キホーテでの放火では、ガソリンスタンドで購入した灯油を商品に染み込ませて火をつけたことが判明しました。逮捕された女性には、以前にも窃盗事件で逮捕歴がありましたが、精神疾患による心神耗弱と判断され、起訴猶予となり釈放されたばかりでした。

取調べでは、女性は放火容疑を否認し続けていましたが、2005年4月には一転して7件の放火容疑を認め、現住建造物等放火などの容疑で再逮捕されました。しかし、数日後には再び容疑を否認し、裁判でも争う姿勢を見せました。

刑事裁判

一連の放火事件に対する刑事裁判では、被告の女性は起訴内容を全面的に否認し、無罪を主張しました。検察側は、交際相手との関係の悩みからくる鬱憤を晴らし、騒ぎに乗じて万引きをしようと考えた動機を主張。計画性も指摘しました。浦和花月店で亡くなった従業員の遺族は、法廷で極刑を求めました。

2007年3月、さいたま地方裁判所は被告に対し、動機に酌量の余地はないとして無期懲役の判決を言い渡しました。被告側は控訴・上告しましたが、東京高等裁判所、最高裁判所はいずれも一審の判決を支持し、2008年11月に無期懲役が確定しました。

民事裁判

浦和花月店で亡くなった従業員の遺族は、さいたま市消防局の対応に問題があったとして、市に対して損害賠償を求める訴訟を起こしました。第一審では遺族の請求は棄却されましたが、控訴審で和解が成立。市側は賠償義務を負わないこととなりましたが、火災発生時の通報対応に関するマニュアルの改善など、教訓を活かした対応が確認されました。

その他の関連事項

模倣犯

被疑者の逮捕後、2004年12月中に、ドン・キホーテの他の店舗や他の商業施設で同様の放火事件が複数発生しました。これらは模倣犯によるものと考えられていますが、2011年時点でも被疑者は逮捕されておらず、公訴時効が成立したものとみられています。

詐欺事件

この事件に関連して、2009年から2010年にかけて、元ドン・キホーテ常務が事件の被害者遺族への対応費用を偽り、会社から現金を詐取したとして逮捕・起訴され、詐欺罪で有罪判決を受けています。

店舗のその後

ドン・キホーテ浦和花月店

事件後、店舗の建物はそのまま残されていましたが、捜査終了後に解体され更地となりました。跡地にはドラッグストアが建設されています。元々この場所にあった建物は、過去にも別のスーパーマーケットとして営業していた際に火災に遭った経験があり、奇しくも二度目の火災となりました。なお、浦和市内で営業していた別の長崎屋店舗がMEGAドン・キホーテとして転換され、事件の「事実上の再建」として位置づけられています。この店舗の駐車場入口には、犠牲となった3名の従業員を悼む慰霊碑が建てられています。

ドン・キホーテ大宮大和田店

大宮大和田店は事件後も営業を継続しましたが、後にグループ会社のDIY用品店に転換され、最終的に2012年に閉店。現在は倉庫として利用されているようです。

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