ドン・ヒューイット

ドン・ヒューイット：テレビジャーナリズムの革命家

ドン・ヒューイット(1922-2009)は、アメリカ合衆国を代表するテレビニュースプロデューサーであり、経営者でした。彼の名は、アメリカで最も長く放送され、絶大な人気を誇ったニュース番組『60ミニッツ』と不可分です。ヒューイットの卓越した手腕により、『60ミニッツ』はニュース番組として初めて全米視聴率トップの座を獲得し、その栄光を5回も繰り返しました。彼の死後も、『60ミニッツ』はアメリカで最長寿のゴールデンタイム番組としてその地位を保ち続けました。さらに、1960年の大統領選挙討論会の初となるテレビ放映をプロデュースするなど、テレビジャーナリズムの歴史に多大な貢献をしました。

波乱万丈のキャリア

ニューヨーク生まれのヒューイットは、ロシアからのユダヤ系移民である父と、ドイツ系ユダヤ人の母を持つ家庭で育ちました。幼少期はボストン、ミルウォーキーと転居を繰り返し、多様な文化に触れて過ごしました。ニューヨーク大学卒業後、新聞社や通信社でジャーナリストとしてキャリアをスタートさせます。第二次世界大戦中はアメリカ商船学校で学び、ロンドンでジャーナリストとして活躍。戦後はAP通信などで経験を積み、1948年にCBSニュースに入社しました。

CBSでは、夕方のニュース番組のディレクターとして手腕を発揮。エドワード・R・マローとフレッド・W・フレンドリーの共同制作番組『シー・イット・ナウ』の初代ディレクターも務め、2台のフィルム映写機を用いた革新的な編集技術を導入しました。この技術は、ニュース番組の編集方法に大きな影響を与え、現代のニュース放送の基礎を築いたと言えるでしょう。1956年には、客船アンドレア・ドーリア号沈没の最後の瞬間をフィルムに捉えるなど、数々の重要な瞬間を記録しました。

1960年には、ケネディ上院議員とニクソン副大統領による史上初の大統領選挙討論会をテレビ放映で演出。この出来事は、アメリカ大統領選挙におけるテレビの重要性を決定づけました。その後、『CBSイブニングニュース』のエグゼクティブ・プロデューサーに就任し、ウォルター・クロンカイトを支えました。

『60ミニッツ』の成功と波紋

1968年、ヒューイットが開始した『60ミニッツ』は、放送開始から10年以内に全米視聴率トップ10入りを果たし、その後22シーズンのうち21シーズンにわたってトップ10にランクインしました。この番組は、エミー賞を8回受賞するなど、数々の賞を受賞し、長年にわたってアメリカ社会に大きな影響を与え続けました。

しかし、『60ミニッツ』の成功は常に平坦な道ではありませんでした。1996年のタバコ会社ブラウン＆ウィリアムソン社の内部告発者に関する報道は、大きな社会問題となり、1999年の映画『インサイダー』の題材にもなりました。

2002年には、『60ミニッツ』の視聴率が低下したことを受け、ヒューイットのエグゼクティブ・プロデューサーの座交代が議論されました。結果、ヒューイットはエグゼクティブ・プロデューサーを退任し、CBSニュースの特別エグゼクティブ・プロデューサーに就任しました。

近年、ヒューイットは、1990年代にCBS社員に対して性的暴行を繰り返したとして訴えられ、CBSは和解金を支払ったことが明らかになり、彼の功績と問題点を同時に示す結果となりました。

私生活と晩年

ヒューイットは生涯で3回結婚し、子どもや養子を育てました。彼の妻たちは、演劇プロデューサーやジャーナリストなど、多様な分野で活躍していました。2009年、膵臓癌のためニューヨークで死去しました。

受賞歴と著作

ヒューイットは、その功績により、ポール・ホワイト賞、ピーボディ賞、テレビの殿堂入りなど、数々の賞を受賞しました。また、『60ミニッツ』の歴史を記した"Minute by Minute"や自伝"Tell Me a Story: Fifty Years and 60 Minutes in Television"を出版しています。

ドン・ヒューイットは、単なるテレビプロデューサーではありませんでした。彼は、テレビジャーナリズムの未来を切り開いた、真のイノベーターであり、彼の功績は今もなお、テレビ業界に大きな影響を与え続けています。しかし、彼の複雑な人生を理解するには、成功と栄光だけでなく、影の部分にも目を向けなければならないでしょう。

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