ドン・ローザ

ドン・ローザ（Don Rosa、本名：Keno Don Hugo Rosa、1951年6月29日 - ）は、アメリカンコミック界に燦然と輝く漫画家、イラストレーターである。ケンタッキー州ルイビルのイタリア系アメリカ人の家庭に生まれ育ち、スクルージ・マクダックやドナルドダックといったディズニーキャラクターを主役とする数々の作品で世界中に知られる存在となった。特に、代表作である『スクルージ・マクダックの生涯と時代(The Life and Times of Scrooge McDuck)』は高い評価を受け、彼の名を不朽のものとした。

ローザ家の歴史は、1915年に北イタリアからアメリカへ移住してきた曾祖父ジョアキーノ・ローザに始まる。ケンタッキー州で家族を築いた彼の息子ヒューゴは、ドイツ系アメリカ人とスコットランド・アイルランド系の血を引く女性と結婚。その間に生まれたのが、ドン・ローザである。彼の名前、ケーノ・ドン・ヒューゴ・ローザは、父と祖父の名に由来する。

幼少期から漫画への情熱を燃やしたローザは、言葉よりも先に絵筆を握り、物語を紡ぎ始めた。少年時代の作品には、ホーリーとジョーというオリジナルキャラクターが登場する。成長するにつれ、Western Publishingの『スクルージおじさん』やDCコミックスの『スーパーマン』シリーズといった作品に強い影響を受け、独自の漫画世界を構築していくことになる。

ケンタッキー大学で土木工学を専攻し、1973年に卒業。しかし、彼の心は常に漫画制作にあり、大学時代から本格的な作品作りを始める。1971年には、ランスロット・パートウィラビーを主人公とするコミック・ストリップ『Lancelot Pertwillaby』を発表。大学新聞への寄稿を通じて、政治風刺を織り交ぜた作品も手掛けた。さらに、カール・バークスの『アンデスで遭難！』にインスパイアされた『Lost in (an alternative section of) the Andes』など、初期から高い創作意欲を見せている。大学卒業後も、家族経営のタイル会社を営みながら、趣味として漫画制作を続け、ファンジンへの寄稿や、ローカル新聞への連載など、地道な活動を続けた。

1985年、運命の転機が訪れる。小さな漫画店でGladstone社のディズニーコミックを発見したローザは、子供の頃から憧れていたカール・バークスの後継者として、自らの才能を活かす機会を得るべく、編集者であるバイロン・エリクソンに連絡を取る。彼の情熱と才能に感銘を受けたエリクソンは、ローザにディズニーキャラクターを題材とした作品制作を依頼。こうして生まれたのが、『太陽の息子(The Son of the Sun)』である。この作品はハーベイ賞にノミネートされるなど高い評価を受け、ローザのディズニーコミック作家としての地位を確立した。しかし、ライセンサーであるディズニーとの制作上の摩擦からGladstone社を退社。その後、オランダやアメリカで様々な作品を発表していく。

ローザの作品の特徴として特筆すべきは、作品中に隠された「隠れミッキー」の存在である。これは、彼のユーモアセンスと緻密な作画技術を象徴するものであり、多くのファンを魅了し続けている。例えば、『トランバールの恐怖(The Terror of the Transvaal)』では象の足の裏にぺしゃんこになったミッキーマウスが描かれ、『醜い宇宙害虫の襲来(Attack of the Hideous Space-Varmints)』では、スクルージの貯金箱が月に衝突した跡がミッキーマウスの形になっている、など、作品中に散りばめられたミッキーマウスを探すのも、ローザ作品を楽しむ上での醍醐味と言えるだろう。

1980年には、教師であるアン・ペインと結婚。子供はいない。彼の作品は、単なる娯楽作品を超え、緻密な歴史考証や地理的正確さ、そしてユーモアあふれる独自の世界観によって、多くの読者から愛され続けている。ドン・ローザは、その類まれな才能と情熱によって、ディズニーコミックの歴史に、そしてアメリカンコミック史に、永遠の足跡を刻み込んだ稀有な存在なのである。

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