ドーソン・カー・カンパニー

1918年6月、A・J・ドーソンによって設立されたドーソン自動車会社は、英国自動車史において特筆すべき存在でした。ドーソンは、それ以前よりヒルマン自動車で工場長兼主任技術者として活躍しており、同社の代表車種であるヒルマン・ナインの開発にも携わっていました。ヒルマン・ナインは、ドーソンが同社を退社した1925年まで、およそ4000台が生産されるロングセラーとなりました。

ドーソン自動車会社で製造されたのは、1795cc、11～12馬力のオーバーヘッド・カムシャフトエンジンを搭載し、3速トランスミッションと組み合わせた、ただ一つの車種のみでした。しかし、そのボディスタイルは4種類存在し、多様な顧客のニーズに応えようとしていました。車両の生産は、コーチビルダーとして名高いチャールズワース社が担当しました。そして、特徴的な黒いウイングと、ドーソン・ブルーと呼ばれる美しい塗装が施されたこれらの車両は、当時の英国の道路を走りました。

ドーソン車の最大の特徴は、その高い品質と独自性でした。ほとんどすべての部品を自社で製作しており、コヴェントリーのストーク・クレイラインにあった工場で、熟練の職人たちが丁寧に車両を作り上げていました。しかし、この高い品質は同時に、高価な販売価格という問題も引き起こしました。2座の廉価モデルでさえ750ポンドという価格は、当時のモーリスやオースチンといった競合車種に比べて非常に高く、市場での競争力を阻害する要因となりました。

ドーソン自動車会社は、1921年に約70台の車両を生産した時点で、トライアンフに買収されました。これは、高品質を追求した少量生産という経営戦略が、大量生産による低価格競争が激化する市場において、持続可能ではなかったことを示しています。しかしながら、ドーソン車が誇る高い技術力と、その独特のスタイリングは、英国自動車史における小さなながらも重要な足跡として、現在も人々の記憶に刻まれています。ドーソン自動車は、量産車とは異なる、職人気質あふれる少量生産車という、ひとつの理想を追求したメーカーとして、その歴史を閉じたと言えるでしょう。

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