ドーニャ・イサベル・デ・ポルセールの肖像

『ドーニャ・イサベル・デ・ポルセールの肖像』は、スペインのオリジナルなロマン主義を代表する画家フランシスコ・デ・ゴヤによって制作された肖像画であり、その作品は1805年以前に完成しました。この作品はイサベル・デ・ポルセールを描いたもので、彼女は自身の夫であるアントニオ・ポルセールの2番目の妻です。現在、この肖像画はロンドンに位置するナショナル・ギャラリーに大切に保管されています。

制作の背景

イサベルは約1780年にスペインのマラガ県ロンダに生まれました。彼女が20歳の頃に出会った夫アントニオは、彼女よりも25歳年上であり、またアメリカ植民地の大臣を務めるなど、社会的地位が高い人物でした。アントニオは啓蒙思想の信奉者でもあり、有名な政治家や哲学者と友人関係にありました。1802年に結婚し、彼らは4人の子供を授かりました。ゴヤとの関係は、アントニオの知人たちが著名な政治家であったことから生まれました。イサベルの肖像画は、ゴヤから夫妻のもてなしへの感謝の証として贈られたとも言われています。ゴヤはその後、1806年にもアントニオの肖像画を手掛けています。

作品の特徴

画面には、白いシャツと黒いマンティーリャを身にまとったイサベルの半身像が描かれています。彼女の衣装は当時のスペインにおける一般的なスタイルでありながら、その豪華さと優雅さが印象的です。特にゴヤの有名な『着衣のマハ』にも見られるように、裕福な層の人々は異なるスタイルのファッションを併用することがありました。

この肖像画では、両腕を腰に当てて毅然とした表情を浮かべるイサベルに自信がみなぎっています。彼女の柔らかな茶色の髪と明るい瞳、そして白い肌は画面上で美しく対比され、身体はわずかに左側を向き、頭は反対側に向いています。ゴヤは周囲に余分な要素を加えず、リアリズムと奥行き感を見事に表現しました。特に、レースの透明感を巧みに描写した部分は驚くべきものであり、独特のジグザグ模様は観る者の目を引きます。また、イサベルは鑑賞者ではなく、画面の左を向いているという点も、この肖像画の特徴と言えます。

鑑定と研究

『アントニオ・ポルセールの肖像』と同時期に作られたこの肖像画は、サイズ的には少し小さく、また特に対として制作されたものだとは考えられていません。このイサベルの肖像画は1953年、ブエノスアイレスのジョッキー・クラブの暴動中に焼失しました。

モデルの名前がイサベル・デ・ポルセールであることは、キャンバスの裏に記されたゴヤのサインからも確認できます。しかし最近では、ゴヤによる作品に対して異議を唱える研究者も存在しています。イサベルの描写には彼女の独特のカリスマ性が感じられる一方で、彼女の内面を理解しにくいという不明瞭な側面もあります。ゴヤの他の肖像画では、その心理描写が卓越しているため、その違いが際立つことがあります。

1980年には、この肖像画の保全作業が行われ、その際にX線撮影が実施されました。その過程でイサベルの肖像画の下に別の人物が描かれていることが分かりました。これにより、下にあるもう一つの肖像画が別のモデルによるものである可能性が示唆されています。政治的な混乱があった19世紀初頭のスペインにおいて、アーティストは利用可能なキャンバスを再利用することが多かったため、この現象は当時の状況を反映しています。

来歴と影響

この肖像画はかつてグラナダのポルセル・イ・ザヤス家に受け継がれた後、さまざまな手に渡り、最終的に1896年にナショナル・ギャラリーに約404ポンドで購入されました。これはナショナル・ギャラリーが初めて収集したゴヤの作品の一つであり、彼の肖像画としても最初の作品にあたります。

また、この肖像画は1967年にBBCによるドラマ『フォーサイト・サーガ』のいくつかのエピソードで使用され、広く知られることとなりました。

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