ドール (太田裕美の曲)

太田裕美が歌うシングル「ドール/やあ！カモメ」は、1978年7月1日にCBS・ソニー（現在のソニー・ミュージックレーベルズ）からリリースされました。この作品は、太田裕美のキャリアにおいて、彼女自身が手がけた初めて、そして現時点では唯一となる両A面形式のシングルとして特筆されます。

A面「ドール」

A面として位置づけられた楽曲「ドール」は、そのタイトルが示す通り、セルロイド製の人形をモチーフにしたセンチメンタルな雰囲気をまとっています。歌詞の世界観は、異国情緒あふれる港町・横浜を舞台としており、美しい情景描写と共に物語が紡がれます。そのため、横浜のご当地ソングとしても認識されています。

この楽曲は、当時の音楽シーンを牽引していた才能豊かなクリエイターによって生み出されました。作詞は、情景豊かで詩的な表現を得意とする松本隆氏が担当。作曲・編曲は、数多くのヒット曲を手がけ、メロディメーカーとしてその名を馳せた筒美京平氏が手がけています。彼ら二人の手腕によって、「ドール」は情感深く、耳に残るメロディを持つ楽曲として完成しました。

「ドール」は、その年の年末に行われた『第29回NHK紅白歌合戦』において、太田裕美が披露する楽曲として選ばれました。これは、楽曲がリリースから短期間で広く聴衆に受け入れられ、その人気と芸術性が高く評価されたことの証と言えるでしょう。テレビを通じて全国に歌声が届けられ、この曲の認知度をさらに高める機会となりました。

B面「やあ！カモメ」

一方、シングルのもう一つの表題曲であるB面「やあ！カモメ」は、当時のTBS系列で放送されていたテレビドラマ『やあ!カモメ』の主題歌として起用されました。ドラマのテーマソングとして、多くの視聴者の耳に触れる機会を得ていました。

この楽曲は、「ドール」とは異なり、太田裕美自身が作詞と作曲を手がけています。自らの感性を言葉とメロディに乗せたこの曲は、彼女のアーティストとしての側面を強く打ち出した作品と言えます。編曲は、幅広いジャンルの楽曲を手がけたアレンジャー、萩田光雄氏が担当。ドラマの雰囲気に合わせた、爽やかで軽快なサウンドに仕上げられています。

両A面シングルの意義

太田裕美にとって最初で唯一という「両A面」形式でのリリースは、当時の音楽業界において必ずしも一般的ではなかった形態であり、このシングルの特異性を示しています。通常、シングル盤はA面にメイン曲、B面にカップリング曲を配しますが、両A面は文字通り二つの楽曲が同等の扱いを受けることを意味します。これは、「ドール」と「やあ！カモメ」という、それぞれ異なる魅力や背景を持つ楽曲を、どちらも表題曲としてリスナーに届けたいという意図があったと考えられます。

収録アルバム

「ドール/やあ！カモメ」の二つの楽曲は、シングルの発売直後である1978年8月1日にリリースされたオリジナルアルバム『ELEGANCE』に収められています。このアルバムは、シングル曲を含む当時の太田裕美の音楽性を包括的に示す作品となっています。

また、後年にリリースされたベストアルバム『GOLDEN☆BEST 太田裕美 コンプリート・シングル・コレクション』にも、その名の通りシングル曲として収録されています。これは、太田裕美の代表的なシングル作品として、後世に伝えられるべき重要な楽曲であると位置づけられていることを示唆しています。

さらに、「ドール」が横浜を舞台にしたご当地ソングであることから、横浜市にまつわる楽曲を集めたコンピレーション・アルバム『横浜幻想（ヨコハマ・ファンタジー）』にも収録されています。これは、楽曲が持つ地域性や文学性が評価されていることの表れと言えるでしょう。

関連事項

このシングルに関連する事柄として、リリースされた1978年の音楽シーン全般、または楽曲のモチーフとなった「青い眼の人形」のような人形をテーマにした楽曲、そして「ドール」が該当する神奈川県、特に横浜を舞台にしたご当地ソングの数々が挙げられます。

「ドール/やあ！カモメ」は、太田裕美のディスコグラフィーにおいて、初めての両A面という形式、異なるタイプの楽曲、そして著名な作家陣と太田自身の手による作曲が共存する、多角的な魅力を持つ作品として記憶されています。

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