ナイキ・ハイダック

ナイキ・ハイダック（Nike Hydac）

ナイキ・ハイダックは、アメリカ合衆国によって開発され運用された観測ロケットです。このロケットシステムの興味深い点は、地対空ミサイルとして広く知られる「ナイキ・エイジャックス」の設計や技術を基礎としているところにあります。科学的な観測を目的として設計された2段式固体燃料ロケットであり、比較的手軽に高層大気やその周辺領域に科学観測機器を投入することを可能にしました。

開発経緯と組織

本ロケットシステムは、マサチューセッツ州ケンブリッジに所在したAFCRL（Air Force Cambridge Research Laboratory、空軍ケンブリッジ研究所）によって開発されました。AFCRLは、アメリカ空軍のために様々な科学技術の研究開発を行う機関であり、ナイキ・ハイダックの開発は、大気圏上層や宇宙空間に関する知見を深めるための彼らの取り組みの一環であったと考えられます。既存の強力なロケットブースター技術を応用することで、効率的に観測ロケットシステムを構築した事例と言えるでしょう。

技術的特徴

ナイキ・ハイダックは、構造的に二つの主要な段から構成される固体燃料ロケットです。

第1段: 「ナイキ」ブースター。これは、ナイキ・エイジャックスミサイルの下段に使用されたブースターを流用したもので、打ち上げ初期の強力な推進力を担います。固体燃料特有のシンプルさと信頼性を持ち合わせています。
第2段: 「ハイダック」上段ロケット。第1段によって高度と速度を得た後、この段が点火し、ロケットをさらに加速させて目標とする観測高度まで到達させます。

主要なロケットの諸元は以下の通りです。

全体の重量: 900 kg
全体の長さ: 9.10 m
胴体の直径: 0.42 m
推力: 217.00 kN (これは主に強力な第1段ブースターによって発生する推力とみられます)
* 到達可能な最高高度: 150 km

全長9.10mに対し直径が0.42mと、比較的細長い形状をしています。総重量900kgのペイロード（観測機器など）を搭載し、217kNという十分な推力を発生させる第1段によって迅速に加速され、最終的に地上から150kmの高度にまで到達させることが可能でした。この150kmという高度は、地球のカーマンライン（高度約100km）を超える宇宙空間の低層部にあたり、高層大気、電離層、地磁気活動、そして宇宙からの放射線や粒子などの直接観測に適した領域です。

運用実績と貢献

ナイキ・ハイダックは、1966年11月5日に初めて打ち上げられて以来、1983年6月16日に最後のミッションを終えるまで、約17年間にわたり運用されました。この運用期間中に、合計で87回という多数の打ち上げが実行されています。

打ち上げは、アメリカ国内の主要な実験場だけでなく、世界各地の様々な場所で行われました。例えば、ニューメキシコ州のホワイトサンズ・ミサイル実験場やアラスカ州のポーカーフラットロケット発射場、マサチューセッツ州のNorth Truro Air Force Stationといったアメリカ国内のサイトに加え、太平洋マーシャル諸島のクェゼリンミサイル射場、さらには南米ブラジルのリオ・グランデ空港（Cassino Siteとしても知られる）からも発射されました。多様な緯度や磁気緯度を持つ地点からの打ち上げは、地球物理学的な現象、例えばオーロラや南大西洋異常帯など、地域によって異なる現象を観測する上で非常に価値がありました。

観測ロケットは、人工衛星に比べて滞空時間は短いものの、開発・打ち上げコストを抑えつつ、特定の時間や場所、高度におけるピンポイントな観測を繰り返し実施できる利点があります。ナイキ・ハイダックの87回という打ち上げ回数は、当時の高層大気物理学や宇宙科学の研究において、このロケットがいかに重要なツールとして活用されたかを物語っています。これらの観測データは、地球を取り巻く環境や宇宙空間の現象に関する理解を深める上で貴重な貢献を果たしました。

「Operation Have Horn」といった関連するプロジェクト名も残されており、特定の研究ミッションやキャンペーンにおいてナイキ・ハイダックが使用された可能性を示唆しています。

ナイキ・ハイダックは、既存のミサイル技術を科学研究に応用した成功例として、観測ロケットの歴史においてその地位を確立しています。約20年にわたる運用を通じて収集された膨大なデータは、現在に至るまで宇宙科学分野の研究基盤の一部となっています。

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