ナガランド民族社会主義評議会

ナガランド民族社会主義評議会（NSCN）

ナガランド民族社会主義評議会（National Socialist Council of Nagaland、略称：NSCN）は、主にインド北東部で活動するナガ人の武装組織です。その結成以来、ナガ人が居住する地域を統合し、「ナガリム（Nagalim）」と呼ばれる独立国家を樹立することを最終目標として掲げています。

歴史的背景と設立

「ナガ」とは、インド北東部からミャンマー北西部の山岳地帯にかけて暮らす多様な民族集団の総称であり、19世紀にイギリス領インドの一部として統合される中で用いられるようになりました。インド独立後、ナガ人の間では分離独立を求める運動が活発化しました。NSCNが設立される直接的な契機となったのは、1975年にナガ独立運動の中心組織であったナガ民族評議会（NSC）が、インド政府との間でシロン協定を締結したことです。この協定は、武力闘争の放棄とナガランド州がインドの領土であることを事実上認める内容であり、これに反発したNSCの一部指導者、特にイサク・チシ・スウ、トゥインガレン・ムイヴァー、S・S・カプランらが離脱し、新たな組織としてナガランド民族社会主義評議会を結成しました。

組織の分裂と活動

NSCNは設立後、独自の政治部門と武装部門を持つ地下政府のような体制を構築しました。しかし、インド政府との交渉における路線の違いなどを巡り、指導部内で再び対立が生じます。結果として、1988年4月30日、組織はS・S・カプラン率いるカプラン派（NSCN-K）と、イサク・チシ・スウとトゥインガレン・ムイヴァー率いるイサク・ムイバ派（NSCN-IM）へと大きく分裂しました。この分裂後、両派閥の間で激しい衝突が発生しました。1997年にはNSCNの両勢力とインド政府との間で停戦協定が結ばれ、NSCN-Kはさらに2012年にミャンマー政府とも停戦合意に至っています。

近年では、NSCN-IMが2015年8月にインドのナレンドラ・モディ首相立ち会いのもとナガ平和協定に署名するなど、政治的解決に向けた動きを見せる一方で、NSCN-Kは同年、北東インドの反政府勢力連合である西部東南アジア連合民族解放戦線（UNLFW）に加盟し、より強硬な姿勢を鮮明にしました。2015年6月には、UNLFWに属するNSCN-Kなどがマニプル州でインド軍部隊を奇襲し、多数の死傷者を出しています。これに対し、インド軍はミャンマー国内のNSCN-K拠点への攻撃を発表しましたが、ミャンマー政府およびNSCN-Kはこれを否定しました。また、2019年にはインド軍とミャンマー軍が共同で、印緬国境地帯の武装勢力拠点（NSCN-Kを含む）に対する掃討作戦（Sunrise IおよびII）を実施しています。

目的とイデオロギー

NSCNの設立目的は、インド北東部からミャンマー北西部にかけて広がるナガ人の歴史的な居住地域を基盤とする独立国家「ナガリム」を建設することにあります。彼らは言語や慣習が異なるナガ諸民族を一つの政府のもとに統合し、民族自決による分離独立を目指しています。組織の綱領によれば、NSCNは社会主義を標榜し、組織を中心とした人民民主主義独裁と、組織内部での民主主義的な運営を目指すとされています。

NSCNの思想的背景については、毛沢東思想やキリスト教の影響が指摘されることが多く、評論家のバーティル・リントナーは彼らのイデオロギーを「福音主義と革命社会主義の混淆物」と評しています。特にNSCN-IMのマニフェストには「キリストのためのナガランド」というスローガンが見られますが、指導者ムイヴァーはこの言葉がナガランドを神権国家にする意図ではなく、単に国民の95%がキリスト教徒であるという現状を反映したものだと説明しています。

支配地域と経済活動

NSCN-IMは主にインド北東部、特にナガランド州全域とマニプル州の山岳地帯において強い影響力を行使しています。加えて、近隣のアッサム州やアルナーチャル・プラデーシュ州にも一定の活動範囲を持っています。一方、NSCN-Kはアルナーチャル・プラデーシュ州の一部や東部ナガランドに勢力を持ち、その本部はミャンマー国内に置かれています。

NSCN-IMの主な資金源は、麻薬の密売や、彼らが支配または影響力を持つ地域からの「税金」徴収です。これらの収入の約7割が組織本部へ、残りの3割がその活動地域における下位の反政府勢力に分配されると報じられています。徴収される「税金」は多岐にわたり、州政府職員の給与から12%の所得税、一般住宅からの固定資産税、さらには店舗からの5%以上の売上税などが含まれるとされています。

論争と課題

NSCNは、その活動を巡って様々な論争や批判に晒されています。例えば、2015年には英エコノミスト誌が、NSCN-Kがナガ分離主義運動の分裂と弱体化を図るインドの情報機関から資金援助を受けていると報じました。また、NSCN-IMに対しては、組織の思想や方針に異を唱えるナガ人であっても武力をもって排除し、殺害しているとの批判があります。実際、2021年9月には、ゼリアンロン族の男性であるAthuan Abonmai氏がNSCN-IMによって拉致された後に殺害される事件が発生しています。

これらの複雑な背景と活動は、ナガ地域の安定と平和的な解決に向けた取り組みに大きな影響を与え続けています。

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