ナクバの日

ナクバの日

ナクバの日（Nakba Day、アラビア語: ذكرى النكبة）は、「大惨事の記憶」を意味し、1948年前後にパレスチナで発生した歴史的な大惨事、すなわちナクバ（al-Nakba）を追悼し、その記憶を継承するために定められた日です。

ナクバとは

「ナクバ」とは、具体的には、1948年の第一次中東戦争とその前後の時期に、パレスチナの社会基盤と国土が組織的に破壊され、大多数のパレスチナ人が故郷を追われ、永続的な難民状態に置かれた出来事を指します。この出来事は、パレスチナの人々にとって、単なる過去の災難ではなく、現在も続く帰還権の否定や民族としての自決権を認めない政策によって引き起こされている「進行中のナクバ」として認識されています。

記念日の日付

ナクバの日は、一般的にグレゴリオ暦の5月15日に定められています。この日付は、1948年5月14日にイスラエル国家がその独立を宣言し、翌15日にイギリスの委任統治が終了したことに続くものです。パレスチナの人々は、イスラエル建国に伴う自らの苦難を記念するため、イスラエルの独立日の翌日をナクバの日として定めたのです。

しかし、日付に関しては複雑な側面も存在します。イスラエルはユダヤ暦に基づき、ヘブライ暦の5708年イヤール月5日を独立記念日（ヨム・ハアツマウート）として祝います。この日付はグレゴリオ暦では毎年変動します。このため、イスラエル国内に居住する一部のパレスチナ系市民は、公式の5月15日ではなく、イスラエルの独立記念日であるヨム・ハアツマウートに合わせて、ナクバの日に関連する追悼行事を行うことがあります。ユダヤ暦とグレゴリオ暦の周期的な違いにより、公式なナクバの日（5月15日）とヨム・ハアツマウートが重なるのは、およそ19年に一度の頻度となります。

歴史的な背景

ナクバの日の概念は、1949年以降、パレスチナの人々による抗議活動や追悼集会などを通じて非公式に存在していました。そして、1998年に当時のパレスチナ自治政府議長であったヤーセル・アラファトによって、正式な記念日として制定されました。

国際社会の認識と政治的反応

近年、ナクバの日は国際的な注目を集めるようになっています。2022年には、国際連合総会において、ナクバの日を認識する決議が賛成多数（90カ国賛成、30カ国反対、47カ国棄権）で採択されました。

この決議に基づき、ナクバから75周年にあたる2023年5月15日には、国連総会で初めて公式な追悼行事が開催されました。この行事では、ナクバの歴史に関する演説や、パレスチナの文化・芸術に関するパフォーマンスが行われました。

しかし、このような国連の動きに対して、イスラエル政府は強く反発しています。イスラエルは、ナクバの日の認識は自国の正当性を否定するものだと主張し、国連加盟国に対し、この行事への欠席やボイコットを強く促しました。アメリカ合衆国を含む一部の国は、実際に公式行事への代表者派遣を見送るなど、国際社会におけるナクバの日を巡る政治的な緊張が浮き彫りとなっています。

ナクバの日は、過去の悲劇を記憶し、現在の苦難を認識するための重要な日であり、パレスチナの人々の民族的なアイデンティティと深く結びついています。同時に、その国際的な認識を巡っては、歴史解釈や政治的正当性を巡る複雑な対立が存在しています。

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