ナサニエル・ド・ロスチャイルド

ナサニエル・ド・ロスチャイルド：ロスチャイルド家とシャトー・ムートン・ロートシルトの礎を築いた男

ナサニエル・ド・ロスチャイルド (1812-1870) は、ロスチャイルド家においてフランスにおけるワイン事業の基盤を築いた重要な人物です。ロンドン生まれの彼は、ロスチャイルド家当主ネイサン・メイアー・ロスチャイルドと妻ハンナー・コーエンの四男として誕生しました。彼は、のちにパリのロチルド・フレール銀行で活躍する事となりますが、その前に、銀行家としてのキャリアをスタートさせています。

1850年、ナサニエルは自身の叔父であるジェイムズ・ド・ロスチャイルドの事業に参加するため、パリに移住しました。そして1842年には、ジェイムズの娘であるシャーロット・ド・ロスチャイルドと結婚。彼らには数人の子供が生まれましたが、幼くして亡くなった子もいました。

ナサニエルは、銀行業務のかたわら、ワイン事業にも大きな関心を寄せていました。1853年、彼はジロンド県ポーイヤックにあるシャトー・ブラーヌ・ムートンを買い取ります。このブドウ園は、それまでパリの銀行家テュレが所有していましたが、ナサニエルは莫大な資金を投じてこのブドウ園を手に入れ、シャトー・ムートン・ロートシルトと改名しました。

シャトー・ムートン・ロートシルトは、ナサニエルの情熱と手腕によって、世界的に有名なワイン生産者へと成長していきます。しかし、1855年のボルドーワインの格付けでは、第二級という結果に終わり、ナサニエルは大きな失望を味わいます。この出来事を受け、彼は「Premier ne puis, second ne daigne, Mouton suis.（第一級ではなかった、第二級はいやだった、ムートンだ）」という標語を作成し、格付けへの不満と、自らのワインへの自信を表明しました。

ワイン事業以外でも、ナサニエルはパリ社交界で活躍しました。1856年には、パリのフォーブール＝サントノレ通りに位置する邸宅を購入。一時的にロシア大使館として使用されていたこの建物を改築し、自身の住居としました。この邸宅は、のちに息子のアーサー、そして孫のアンリへと受け継がれ、第一次世界大戦後には連合国の社交クラブへと転売されました。

また、ナサニエルは1878年には、シュヴルーズ渓谷にあるヴォー＝ド＝セルネイ修道院を購入し、大規模な修復工事を経て、豪華な別荘として生まれ変わらせました。

晩年、ナサニエルは失明しました。そして、普仏戦争の最中の1870年、彼はパリでこの世を去ります。彼の子供や孫たちは、ワイン事業にあまり関心を示さず、シャトー・ムートン・ロートシルトはしばらく低迷期を経験します。しかし、118年後、ナサニエルの曾孫にあたるフィリップ・ド・ロートシルトの時代になり、遂にシャトー・ムートン・ロートシルトは第一級に格付けされるという快挙を達成します。これは、ナサニエルの功績と、ロスチャイルド家の不屈の精神を示すものと言えるでしょう。

ナサニエル・ド・ロスチャイルドの生涯は、ロスチャイルド家の繁栄と、フランスにおけるワイン産業の発展に大きく貢献した証です。彼の情熱と決断力、そしてビジネスセンスは、現在も世界中のワイン愛好家たちに影響を与え続けています。

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