ナザレ派

ナザレ派の概要

ナザレ派（なざれは）は、19世紀初頭にドイツで展開された芸術運動であり、キリスト教美術の精神性と誠実さを再生させようとする試みとして知られています。この運動は、1809年にウィーンのアカデミーの学生たちによって結成された聖ルカ兄弟団に起源を持ちます。彼らは、中世の画家たちのギルドを模し、共同による創作や支援を行いました。

ナザレ派の名前は、彼ら自身によるものではなく、外部からの侮蔑的な表現に由来しています。当時、彼らがアルブレヒト・デューラーの『自画像』に深い感銘を受け、聖書に忠実な衣服や髪型を好んだことから周囲から名付けられました。

主な活動と理念

ナザレ派のメンバーであるヨハン・フリードリヒ・オーファーベックやフランツ・プフォル、ルートヴィヒ・フォーゲル、ヨハン・コンラート・ホッティンガーの4人は、1810年にローマへ移住し、イタリア・ルネサンスの芸術に触れます。彼らはその後、同時期の多くのドイツ人画家たちとともに、オーストリアの画家ヨーゼフ・アントン・コッホの指導を受け、共同制作に取り組みました。

ナザレ派の理念は、新古典主義に対する反発や、アカデミーの定型的な美術教育に対する批判から成り立っています。彼らは表面的な技巧に依存せず、真の精神的価値を反映した芸術を追求しました。このため、彼らは中世末期からルネサンス初期にかけてのイタリア・ルネサンスの技法や作品から多くのインスピレーションを受け、また同時にデューラーやルーカス・クラナッハといったフランドル派の作品にも関心を寄せました。

彼らの思想には、ドイツ・ロマン派の文人たちの影響も見られます。特に、ヴァッケンローダーの著作『芸術を愛する一修道僧の心情の披露』に魅了され、芸術と宗教が一体となっていた昔の画家の工房の再生を目指しました。彼らは修道士に近い生活を送り、信仰と芸術の融合を重んじました。

作品と影響

ナザレ派の作品の多くは宗教的な主題を取り扱っており、特に中世フレスコ画の復興に力を注いだことが特徴的です。彼らが手がけた最初のフレスコ画はローマのカーサ・バルトルディにあり、続いてカジノ・マッシモのためにもフレスコ画を制作しました。これらの作品は「ナザレ派」として全ヨーロッパで注目を集めました。

しかし、1830年までにオーファーベックを除くほとんどのメンバーがドイツに帰国し、このグループは解体されました。帰国後、彼らはプロイセンの君主に支援を受け、多くの壁画やフレスコ画の制作に従事しました。特にデュッセルドルフのアカデミーでは、ペーター・フォン・コルネリウスが校長職に就くなどし、ナザレ派は1830年代のドイツ美術界で重要な存在として成長しました。

批判と評価

ナザレ派への批評も存在しました。特に一部の社会主義者は、宮廷によって支援されるナザレ派を批判の対象としました。著名な文学者ハインリヒ・ハイネは彼らの作品を批判し、その美術が人類の進歩を妨げる存在だと考えました。また、哲学者フォイエルバッハはナザレ派の宗教画における神霊主義と人間的感性の乖離を指摘し、後のマルクスに影響を与えました。これらの批評は、ナザレ派の作品への評価に重要な潮流を形成しました。

ナザレ派は宗教的、歴史的文脈において繊細な美を追求し続け、その影響は現代の芸術にも見られる姿勢を残しています。

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