ナチス・ドイツの勲章

ナチス・ドイツの勲章：制度の変遷と象徴

ナチス・ドイツ時代（1933年～1945年）のドイツにおいては、国家権力掌握に伴い、独自のイデオロギーを反映した勲章制度が確立されました。本稿では、その歴史的経緯、制度の変遷、そして主要な勲章について詳細に解説します。

ドイツ帝国時代からの流れとヴァイマル共和国の影響

ドイツ帝国時代、勲章は各邦の君主によって、地位や戦功を称えるために授与されていました。有名な鉄十字章も、ドイツ皇帝ではなくプロイセン国王（兼帝国軍総司令官）の権限で行われていました。ヴァイマル憲法下では、栄典や勲章の授与は原則禁止されましたが、第一次世界大戦の戦功を称える勲章（鉄十字章、傷痍軍人勲章など）については例外的に認められていました。しかし、1925年にはこれらの授与も禁止されています。

ナチス政権下の勲章制度

ナチ党が政権を掌握すると、1933年には「称号勲章法」が制定され、国家や州政府による勲章・称号の授与が認められました。しかし、1937年にはこの法が改正され、勲章・称号の授与権限は総統に独占的に移行。ナチズムのイデオロギーに基づいた多数の勲章が新たに創設され、第二次世界大戦勃発後は、戦功を称える勲章が大量に制定されました。これらの勲章のデザインや象徴は、ナチス政権の宣伝や国民統制に利用されました。

戦後の勲章の扱い

ドイツの敗戦後、連合国軍はナチス政権時代の勲章の佩用を禁止しました。その後、1949年にはこの措置が撤回されましたが、実際には帝国時代の勲章も含め佩用禁止が続きました。ドイツ連邦共和国基本法は勲章授与を禁じていませんでしたが、ナチス時代の「称号勲章法」の有効性については議論がありました。1953年には、外国からの授与に関する規定と罰則規定のみが有効とされ、残りの規定は無効とされました。さらに1957年には新たな勲章法が施行され、第一次世界大戦の勲章や、第二次世界大戦の戦功を称える一部の勲章は存続が認められましたが、ナチズムを象徴するものは廃止され、佩用が禁止されました。また、存続が認められた勲章についても、ナチスの象徴であるハーケンクロイツは除去されました。

勲章の種類

ナチス・ドイツ時代の勲章は、その授与対象や目的によって多様な種類が存在しました。主なものとしては、以下のカテゴリーに分類できます。

最高位勲章: 国家元首やごく少数の高官にのみ授与される、最高の栄誉を表す勲章。
軍功勲章: 軍事的な功績を称える勲章。功績の度合いによって、複数の階級が設定されていたものが多いです。
勤続章: 長期にわたる勤続を表彰する勲章。官僚や党員など、様々な分野で授与されました。
戦傷勲章: 戦闘における負傷を称える勲章。負傷の程度に応じて、異なる階級が設定されていました。
所属組織別勲章: ドイツ国防軍（陸軍、海軍、空軍）、親衛隊、ナチ党など、所属組織ごとに独自の勲章が存在しました。
記念章: 特定のイベントや記念日を記念して作られた勲章。党大会や重要な出来事を記念するものが多く見られます。
* 外国人への勲章: 外国人の協力者や友好国の人物に授与された勲章。

まとめ

ナチス・ドイツの勲章は、単なる栄典ではなく、ナチス政権のイデオロギーや国家体制を反映した象徴でした。その歴史的背景や制度の変遷、そして多様な種類を理解することは、ナチス・ドイツの歴史を理解する上で重要な要素となります。様々な勲章のデザインや、それぞれの背景にある歴史的経緯を詳細に研究することで、当時の社会情勢や権力構造をより深く理解できるでしょう。また、戦後の勲章の扱いをめぐる議論は、ドイツにおける歴史認識や国家アイデンティティの問題とも深く関わっており、現在に至るまで重要なテーマとして議論されています。

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