ナチス・ドイツの焚書

ナチス・ドイツの焚書：思想統制の象徴

1933年、ナチス・ドイツ政権下で、国家による組織的な焚書が行われました。これは単なる書籍の焼却ではなく、ナチズムのイデオロギーに反する思想や表現を徹底的に排除しようとした、象徴的な出来事でした。本稿では、この焚書事件の経緯と背景、その後の影響について詳述します。

焚書の背景と発端

ナチ党が政権を掌握した直後の1933年4月6日、ドイツ学生協会は「非ドイツ的な魂」に対する抗議運動を全国的に展開することを宣言しました。これは、ナチズムのイデオロギーに反する思想や文化を排除するためのキャンペーンであり、そのクライマックスとして「払い清め（Säuberung）」と称する焚書が計画されました。

この運動は、学生協会が中心となり、ナチ党高官や教授らの支援を得て組織的に行われました。彼らは新聞やプロパガンダを通じて世論を喚起し、各地の大学で集会を開催。マルティン・ルターの95ヶ条の論題を彷彿とさせる12ヶ条の論題を発表し、「ユダヤ人の知識の偏重」や「ドイツ語・ドイツ文学の純化」などを主張しました。この12ヶ条の論題は、ドイツ文化のナショナリズム的再編を目指すナチス・ドイツのイデオロギーを反映しています。

焚書の実行とその後

5月10日、全国の大学都市で焚書が実行されました。学生たちは2万5千冊を超える「非ドイツ的」とみなされた書籍を焼き上げ、その様子は盛大に宣伝されました。ベルリンでは、ゲッベルス пропаганда大臣が演説を行い、大勢の聴衆が焚書を傍観しました。ゲッベルスは、特定の作家（ハインリヒ・マン、エルンスト・トレジャー、エーリッヒ・ケストナーなど）の作品を名指しで批判し、焼却を正当化しました。

焚書は5月10日に集中して行われたわけではなく、地域差や天候などの要因で、夏至祭の6月21日に行われたケースもありました。しかし、全国各地で一斉に行われた焚書は、新聞報道を通じて広く国民に知れ渡り、ナチス政権の思想統制の徹底ぶりを示す象徴的な出来事となりました。没収された書籍の一部は、反ユダヤ主義の宣伝資料として利用されたとされています。

焚書の意義と歴史的背景

ナチス・ドイツによる焚書は、単なる書籍の焼却ではありませんでした。それは、ナチス政権が国民の思想や文化を厳しく統制し、自らのイデオロギーに反するものを徹底的に排除しようとしたことを示す、極めて重要な出来事でした。これは、表現の自由や学問の自由を著しく侵害するものであり、民主主義社会の基盤を揺るがすものでした。

焚書事件は、歴史上、度々繰り返されてきた「焚書」という行為の現代版であり、表現の自由や思想の多様性の重要性を改めて認識させるものです。この事件は、権力による思想統制の危険性を示す歴史的な教訓として、現代社会においても重要な意味を持っています。

関連人物と関連事項

この焚書事件に関連する人物として、ジークムント・フロイトやハインリヒ・ハイネなどが挙げられます。フロイトは、ナチスによって自著が焼却されたことに対し、「中世なら私を火刑にしただろうに」と述べたと言われています。また、ハイネは1823年の戯曲『アルマンゾル』で、「本を焼く者は、やがて人間も焼くようになる」という不吉な予言を残しており、その予言は、ナチス政権によるホロコーストという悲劇的な現実へとつながっていきました。

ナチス・ドイツの焚書は、ISILによる図書館や書店からの書籍略奪と焼却という現代の例とも比較検討されるべきであり、表現の自由と学問の自由の大切さを改めて考えさせる、重要な歴史的事例です。

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