ナチ党の権力掌握

ナチ党の権力掌握の過程

ナチ党の権力掌握（Machtergreifung）は、アドルフ・ヒトラーが率いる国民社会主義ドイツ労働者党（ナチ党）がドイツの政権を握るまでの歴史的な経緯を指す。この時期は、第一次世界大戦の敗北とその後のヴァイマル共和国の政治的混乱を背景に、ナチ党が台頭し、急速に権力を掌握する段階を経ていた。ナチ党は、ドイツ国内で合法的に権力を手に入れることに成功したが、その過程は非常に短期間で行われた。権力掌握の過程は、大きく二つの時期に分けられる。ひとつは、ナチ党が国内の有力政党の一つとして認知された1933年1月30日のヒトラー内閣が成立するまで、そしてもうひとつは、ヒトラーが政権を握ってから、反対者を排除し、権力を確立した段階である。後者のプロセスは、わずか2年以内に完結した。

背景

第一次世界大戦の影響

第一次世界大戦後、ドイツは混乱した政治状況に直面していた。ヴェルサイユ条約により、多大な賠償金を課せられ、多くの領土を喪失し、社会的な不安と経済的な困窮が進行した。多くの元兵士たちが失業し、不満が広がった。こうした中で、ナチ党は強力なプロパガンダとヒトラーのカリスマ性を利用し、急速に支持を拡大していった。

ヒトラーの台頭

ヒトラーは1921年にナチ党の指導者となり、その演説や演出は非常に多くの支持を集めた。彼の魅力的な演説スタイルとナショナリズムへの訴求が、人々の心をつかみ、党の拡大に寄与した。特に1923年のミュンヘン一揆は、ヒトラーにとっての重要な転換点となった。この一揆は失敗に終わったものの、ヒトラーは収監中に『我が闘争』を執筆し、自己の理念を確立した。

権力掌握の具体的な過程

1930年代の国会選挙

1930年の国会選挙でナチ党は708万人の票を得て107議席を獲得し、第二政党へと成長した。この結果は、経済危機が進む中、国民からの支持が高まった反映と言える。ヒトラーは次第に政権獲得の可能性を高めていった。

ヒトラー内閣の成立

1933年1月30日、ヒトラーは大統領ヒンデンブルクによって首相に任命され、ナチ党が政権を握ることとなった。初期の内閣ではパーペンを副首相に据え、事実上ナチ党が政府の中心となったが、ヒトラーはその地位においては依然として制約を受けていた。彼らは、過激な行動による権力掌握を計画していたが、まずは政治的手段での安定を図る必要があった。

グライヒシャルトゥングの推進

ヒトラー政権はすぐに「グライヒシャルトゥング」すなわち中央集権化・強制的同一化を進め、州政府の権限を中央に吸収していった。これにより、反対を排除し、支配を強固にしていく。

国会議事堂放火事件

1933年2月27日に発生した国会議事堂の放火事件を機に、ナチ党は共産党に対する大規模弾圧を進めた。ヒトラーはこの火災を共産主義者による陰謀だとして、国家の非常事態を宣言した。この結果、多くの共産党員が逮捕され、メディアの規制も強化された。

全権委任法の成立

1933年3月23日、ナチ党は国会で全権委任法を強引に可決させた。これにより政府に広範な権限が与えられ、ヒトラーの独裁体制が確立されることとなった。議会の機能は失われ、ナチ党の体制が法的に正当化された。

ユダヤ人に対する弾圧

その後、ナチ党はユダヤ人に対する弾圧を強め、様々な法律や政策が導入された。ユダヤ人は公職から排除され、商業活動も制限された。これにより、ユダヤ人の権利は次第に剥奪されていった。

まとめ

ナチ党の権力掌握は、政治的混乱と経済的危機が交錯する中で、組織的かつ戦略的に実施されたものである。この過程は、単なる政党の台頭だけでなく、国家の根幹を揺るがす歴史的な出来事として残ることになる。ヒトラーの元でのナチス・ドイツの誕生は、後の第二次世界大戦とその惨劇を引き起こす前兆ともなった。

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