ナッツヴァイラー強制収容所

ナッツヴァイラー強制収容所：ヴォージュ山脈に影を落としたナチスの悪夢

第二次世界大戦中、フランス領アルザス地方（当時、ドイツに併合されていた）に建設されたナッツヴァイラー強制収容所（Konzentrationslager Natzweiler、フランス名：Struthof）。ストラスブールから南西約60キロ、バ＝ラン県に位置するこの収容所は、ナチス・ドイツによる残虐な人権侵害の象徴として、今もなお暗い歴史を刻み続けています。

収容所の誕生と構造

1940年、ドイツによるフランス占領後、アルザス地方はドイツ領に編入されました。この地で発見された良質な花崗岩の採掘を目的に、親衛隊全国指導者ヒムラーの指示の下、親衛隊企業DESTが採掘場と強制収容所の建設に着手。1941年5月から6月にかけて、ナッツヴァイラー強制収容所は完成しました。

収容所は高圧電線で囲まれ、段差のある地形に18棟のバラックが配置されていました。この地形により、収容所内の移動は困難を極めました。特に、下のテラスに位置する2棟のバラックは、一方が独房、もう一方が高さ8～9メートルの煙突を持つ死体焼却炉という、囚人にとって恐怖の象徴でした。焼却炉バラック内には処刑室と解剖室も併設され、収容所外にはガス室も存在しました。

収容開始当初の囚人数は約4000人でしたが、終戦間際には7000人を超えるまでに膨れ上がりました。一方、看守である親衛隊員は200人を超えることはありませんでした。戦争後期には、花崗岩採掘は中止され、囚人は軍事関連の作業に動員されるようになりました。

1944年8月31日、ダッハウ強制収容所への囚人移送が始まり、収容所の撤収作業が開始されました。1944年11月23日、アメリカ軍が到着した時には、焼却場付近に数百体の遺体が放置されているのみで、収容所は既に空っぽになっていました。戦後、アルザス地方はフランスに返還され、収容所は当時のまま保存され、フランスの歴史的建造物として保護されています。現在も年間25万人もの人々が、この地を訪れています。収容所内には、ナッツヴァイラーの犠牲者たち、そしてナチス強制収容所の犠牲者全体を悼む記念碑が建立されています。

隠されたガス室と人体実験

ナッツヴァイラーのガス室は、収容所から200メートル離れた小さな家の中にありました。偽物のシャワーヘッドが取り付けられたガス室は、一見するとシャワー室のように偽装されていました。小さなガラス窓から内部の様子を窺うことも可能でした。

最初の犠牲者は、アウシュヴィッツから移送された50人ほどのユダヤ人女性でした。彼女たちの遺体はストラスブール市民病院に運ばれ、ホルマリン漬けにされて展示物にされたと伝えられています。その後も、骨格標本作成のために多くのユダヤ人が犠牲になりました。

ガス室は殺害だけでなく、人体実験にも利用されました。親衛隊医師オットー・ビッケンバッハ博士らは、ホスゲンガスに対する解毒剤の効果を調べるため、ジプシー（ロマ民族）を対象とした人体実験を繰り返し行いました。シュトラスブルク帝国大学の学長らも、人種別頭蓋骨収集のために多くのユダヤ人を犠牲にしました。さらに、発疹チフスや黄熱病の抗ワクチン実験にも、収容所の囚人が利用されていました。

収容所の関係者

ナッツヴァイラー強制収容所には、複数の所長や看守がいました。また、フランスの将軍など、多くの著名な囚人も収容されていました。

結論

ナッツヴァイラー強制収容所は、ナチス・ドイツの残虐性を象徴する場所です。現在も保存されている収容所は、二度とこのような悲劇が繰り返されないよう、私たちに歴史の教訓を語りかけています。この収容所は、単なる歴史的建造物ではなく、人権侵害の歴史を後世に伝える、重要な記念碑なのです。

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