ナポレオン・シャグノン

ナポレオン・シャグノン（1938年8月27日 - 2019年9月21日）は、アメリカ合衆国出身の人類学者で、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の名誉教授でした。彼は、長年にわたるヤノマミ族を対象とした民族学的野外調査で広く知られています。また、進化理論を文化人類学に導入した先駆者であり、狩猟採集民族における戦争の研究にも重要な貢献をしました。

シャグノンは、1960年代から1990年代後半にかけて、ブラジルとベネズエラの国境付近のアマゾン川流域に暮らすヤノマミ族の調査を行いました。彼らの間で、シャグノンは「シャキ」という愛称で呼ばれていました。これは彼らの言葉で「うるさいミツバチ」を意味し、シャグノンが村人に絶えず質問を続けたことに由来します。

彼の研究の中心は、ヤノマミ族の家系でした。血縁関係、結婚、協力、紛争解決のパターンを分析することで、人間社会生物学と人間行動生態学の分野で先駆的な役割を果たしました。著書『ヤノマミ：どう猛な人々』は、その詳細な民族誌的記述により、人類学の教科書として広く採用されました。また、シャグノンは視覚人類学のパイオニアとしても知られ、映画製作者ティム・アッシュと協力して、ヤノマミ族の生活を記録した20以上のドキュメンタリー映像を制作しました。これらの研究活動は、彼を著名な人類学者としての地位を確立させましたが、同時に論争や批判も引き起こしました。

特に、2000年に出版されたパトリック・ティアニーの著書『エルドラドの闇』は大きな論争を巻き起こしました。ティアニーは、シャグノンと同僚の人類遺伝学者ジェームズ・ニールが、意図的にヤノマミ族の間ではしかを流行させたと告発しました。しかし、歴史家、疫学者、人類学者、そしてこの問題に直接関わった映画制作者たちは、この主張を調査した結果、告発を否定しました。ミシガン大学の学長室も、この告発のほとんどが虚偽であると結論づけました。

アメリカ人類学協会の調査委員会も、2002年にシャグノンの研究の一部（ヤノマミ族の描写やベネズエラ当局との関係など）について批判的な報告書を提出しましたが、はしかの流行を引き起こしたという主張には根拠がないと結論づけました。委員会は、シャグノンがヤノマミ族とベネズエラ政府の両方から調査継続の同意を得ることに失敗したことも指摘しました。しかし、2005年にアメリカ人類学会はこの報告書を撤回し、その決定は人類学者のための倫理基準に関する議論に終止符を打つものではないものの、エルドラド事件によって損なわれた分野の健全性を取り戻そうとする試みであると述べました。ティアニー自身も後に、当時話を聞いた専門家たちの意見は現在とは全く異なると主張しました。

さらに、テレビドキュメンタリー番組「ザ・トラップ」では、シャグノンが村に滞在したことが研究に影響を与えたのではないかと質問された際、不快感を示し、撮影現場から立ち去る場面がありました。シャグノンがヤノマミ族の少数の人々にのみナタを与え、それが争いの原因になったという指摘も、エルドラドの闇で既に反論された主張と重複するものでした。これらの出来事は、シャグノンの研究が常に倫理的な配慮と正確性を求められる、複雑なものであったことを示しています。彼の研究は、人類学の分野における重要な貢献であると同時に、その倫理的側面に関する議論を常に惹き起こすものでもあります。

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