ナーゲーシュ

インド映画界の喜劇王：ナーゲーシュの生涯と業績

ナーゲーシュ（1933年9月27日 - 2009年1月31日）は、インド映画史に燦然と輝く喜劇俳優である。タミル語映画を中心に、テルグ語、カンナダ語、マラヤーラム語、ヒンディー語映画など、実に1000本以上の作品に出演した彼のキャリアは、まさに伝説と呼ぶにふさわしい。

ジェリー・ルイスばりのコミカルな演技

そのコミカルな演技スタイルは、アメリカの喜劇王ジェリー・ルイスを彷彿とさせ、「インドのジェリー・ルイス」と称されるほど。完璧なまでに練り上げられた彼の喜劇は、観客を常に笑顔に包み込み、彼を「コメディの王様」という称号にまで押し上げた。

華麗なる共演者たち

ナーゲーシュは、全盛期にはM・G・ラーマチャンドランやシヴァージ・ガネーサンといった大スターの作品に多数出演。キャリアを通して、3世代に渡るタミル語映画の主演俳優たちと共演を果たしている。その顔ぶれには、カマル・ハーサン、ラジニカーント、ヴィジャイ、アジット・クマール、シランバラサンといった、インド映画界を代表する名優たちの名前が並ぶ。

俳優への道：鉄道職員からスターへ

カンナダ人ヒンドゥー教徒の家庭に生まれたナーゲーシュは、当初はインド鉄道の職員として働いていた。転機となったのは、同僚が出演した演劇を観劇した時のこと。「自分ならもっと上手くできる」と感じた彼は、鉄道文化協会の幹部に直談判し、演劇への出演を勝ち取る。その演技は、偶然観劇に来ていたM・G・ラーマチャンドランから絶賛され、俳優への道を歩み始めることになる。

転機となった『Server Sundaram』

1958年の映画デビュー後も、なかなか芽が出なかったナーゲーシュだったが、1964年、K・バーラチャンダルの戯曲を原作とした『Server Sundaram』で主演を務める。生活に奔走するレストランの給仕を熱演したこの作品は大ヒット。この成功がナーゲーシュのキャリアに大きな転機をもたらし、以降、K・バーラチャンダルとのコンビ作品は数々のヒットを記録する。

人気絶頂期：年間35本の映画出演

1960年代にはインドで最も人気のある俳優の一人となったナーゲーシュ。最盛期には年間35本の映画に出演し、時には6本の映画撮影を同時進行させたというエピソードも残っている。1965年の『Thiruvilaiyadal』での貧しいながらも純朴な僧侶の演技は、タミル語映画史に残る名場面として高く評価されている。

多様な共演と晩年

『Server Sundaram』以降、彼は数多くの作品で重要な役割を担い、幅広い俳優陣と共演を果たす。1990年の『Michael Madana Kama Rajan』ではカマル・ハーサンと共演。しかし、役柄への不満から口論になったという逸話も残っている。それでも、カマル・ハーサンとは長年に渡り良好な関係を維持し、多くの作品で共演している。晩年まで第一線で活躍し、2008年の『Dasavathaaram』が彼の遺作となった。

健康と死去

ヘビースモーカーで飲酒を好んだナーゲーシュだったが、かつての重病をきっかけにそれらを控えるようになった。しかし、晩年には心臓病や転倒による頭部への重傷など、健康状態が悪化。2009年1月31日、糖尿病と心臓病により65歳で死去した。

インド映画史に残るレジェンド

ナーゲーシュは、その卓越した演技力でインド映画界に多大なる貢献を果たした。彼の遺した作品は、今もなお多くの人々に愛され続けており、インド映画史に不滅の足跡を残した稀代の喜劇俳優として、その名は永遠に語り継がれるだろう。彼の功績は、2014年のアニメ映画『Kochadaiiyaan』において、3Dモデルとして再現されたキャラクターにも見ることができる。まさに、時代を超えた存在と言えるだろう。

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