ニクバエ(肉蝿)とは
ニクバエは、
ハエ目(双翅目)ニクバエ科(Sarcophagidae)に属する
ハエの総称です。世界中に約100属が存在し、日本でも多くの種が確認されています。
特徴
ニクバエは、イエバエに似た外見を持つものの、いくつかの点で区別できます。最も顕著な特徴は、胸部背板にある3本の縦縞です。イエバエや
ヤドリバエ科の
ハエは通常4本の縦縞を持つため、この縞の数がニクバエを識別する際の重要なポイントとなります。
ニクバエ科は、ヤドリニクバエ
亜科(Miltogramminae)とニクバエ
亜科(Sarcophaginae)の2
亜科に分類されます。クロバエ科と近縁で、同じヒツジバエ上科に属しています。
習性
ニクバエの
成虫は
卵胎生で、
孵化寸前の
幼虫を
動物の死骸に産み付けます。
幼虫はウジとして、死肉の中で5~10日間成長し、その後土に潜って蛹になり、
成虫へと変態します。
成虫の寿命は通常1ヶ月程度ですが、冬を越す種ではより長生きします。
ニクバエの
幼虫は、他の
ハエの
幼虫を捕食したり、死んだ
動物質を食べるものが多いです。また、
バッタや甲虫、陸貝、鱗翅目の
幼虫など、さまざまな無脊椎
動物に寄生するものもいます。例えば、
カスミニクバエ類は
バッタに寄生し、クサニクバエはマツ
カレハの
幼虫に寄生することが知られています。これらのニクバエは、生物的防除に利用できる可能性も秘めています。
また、一部のニクバエは、
動物の糞のような腐敗した排泄物を食べます。センチニクバエは汲み取り式
便所の便池に多く発生しますが、水洗化の普及により生息数を減らしています。ニクバエの多くは病原菌を媒介するため、
衛生害虫として知られています。一方で、スイツキコウモリの糞のみを発生源とするニクバエなど、非常に特殊な食性を持つ種も存在します。
人間との関わり
ニクバエは、その生活史の予測可能性から、法医学において重要な役割を果たします。ニクバエの
幼虫は死体を好んで産み付けられるため、法医
昆虫学者は
幼虫の成長段階を調査することで、死亡時刻を推定できます。また、特定の種類のニクバエが特定の腐敗状態の死体を好むことを利用して、死因の特定にも役立てられます。
ニクバエの
幼虫は、釣り餌として「サシ」や「サバムシ」という名称で販売されており、養殖も行われています。
分類
ニクバエ科の分類は、研究者や文献によって異なる場合があります。
亜科の分け方には、2
亜科説と4
亜科説などがあり、属の扱いも様々です。ここでは、スウェーデン自然史博物館のTomas Pape氏による分類に基づいて、日本産ニクバエ科のリストを紹介します。
ヤドリニクバエ亜科 (Miltogramminae)
ドロバチヤドリニクバエ
ヨコジマコバネヤドリニクバエ
シロオビギンガクニクバエ
カノウハナバチノスヤドリニクバエ
エゾハナバチノスヤドリニクバエ
ハチノスヤドリニクバエ
ミカワヤドリニクバエ
和名不詳
Metopia (Anicia) grandii
ヤドリニクバエ Metopia (Anicia) inermis
ミナミヤドリニクバエ
ギンガクヤドリニクバエ
タイワンヤドリニクバエ
ゼニゴギンガクニクバエ
ヒコサンギンガクニクバエ
トガシヤドリニクバエ
コバネニクバエ
和名不詳 Oebalia (Ptychoneura) minuta
ハネボシスナニクバエ
アナバチヤドリニクバエ
カオジロヤドリニクバエ
タカサゴヤドリニクバエ
Paramacronychiinae
ヤチニクバエ
ヒグラシヤチニクバエ(ヒグラシヤドリバエ)
ヒコサンニクバエ
シノナガニクバエ
ハナバチノスヤドリニクバエ
オガサワラホソニクバエ
ホンシュウホソニクバエ
ホリホソニクバエ
リュウキュウホソニクバエ
ゴヘイニクバエ
ニクバエ亜科 (Sarcophaginae)
サンベ
カスミニクバエ
和名不詳 Blaeoxipha dupuisi
和名不詳
Blaeoxipha gladiatrix
和名不詳 Blaeoxipha grylloctona
ヤマト
カスミニクバエ
バッタヤドリニクバエ
カスミニクバエ
アマミカスミニクバエ
ヒラエニクバエ
クダマキモドキヤドリニクバエ
ヒメシリア
カニクバエ
タイワンコニクバエ
カネコニクバエ
カヤニクバエ
コニクバエ
ホリニクバエ
ジョセフニクバエ
カガニクバエ
オキナワヒメニクバエ
ヒメニクバエ
タ
カハシニクバエ
フィールドニクバエ
センチニクバエ
クロニクバエ
アサヒナニクバエ
シリグロニクバエ
チビクロニクバエ
ニホンクロニクバエ
サタニクバエ
キタシリアカニクバエ
ホザワニクバエ
オカザキニクバエ
シュッツェニクバエ
ハマベニクバエ
ビーソンニクバエ
ツノアカニクバエ
イソニクバエ
ミセラニクバエ
クサニクバエ
キタハラニクバエ
コバヤシニクバエ
シリタカニクバエ
ユミガタニクバエ
マキバニクバエ
タ
カネニクバエ
チンタオコニクバエ
タイリクコニクバエ
ホクリクニクバエ
フルトネニクバエ
カワユニクバエ
ペキンニクバエ
ナミニクバエ
ゲンロクニクバエ
シリアカニクバエ
ヤマトニクバエ
クロゲンロクニクバエ
オオイタニクバエ
ツシマニクバエ
トラツメニクバエ
キーガンニクバエ
エゾニクバエ
マーゲンスニクバエ
シラキニクバエ
オオシマニクバエ
キノシタニクバエ
シロガネニクバエ
メッツゲルニクバエ
トリオニクバエ
エダガタニクバエ
エダニクバエ
ウエモトニクバエ
ヌマニクバエ
オオニクバエ
カモシカニクバエ
アニヤニクバエ
トゲニクバエ
ムサシノニクバエ
ハクサンニクバエ
ヨナハニクバエ
これらのリストは、日本のニクバエ相を概観するのに役立ちますが、新種や新記録種が追加されているため、常に更新が必要です。
参考文献
1.
大分県:法医昆虫学
2.
害虫駆除のECHO|肉蠅(ニクバエ)について
3.
センチニクバエ イラスト - Google 検索
4.
センチニクバエの生態・駆除対策|害虫駆除110番
外部リンク
The world of flesh flies (Diptera: Sarcophagidae) - スウェーデン自然史博物館のTomas Pape氏によるニクバエ科のサイト
日本産昆虫目録データベース - 九州大学による日本産
昆虫のデータベース
*
ニクバエ科 Sarcophagidae(みんなで作る双翅目図鑑)