ニコラウス・クラッツァーの肖像

ニコラウス・クラッツァーの肖像

『ニコラウス・クラッツァーの肖像』は、ドイツの画家ハンス・ホルバイン（子）が1528年に制作した肖像画です。この作品は、ホルバインがイングランドに滞在していた時のもので、油彩がキャンバスの上に施されています。現在、この肖像画はフランスのルーヴル美術館に収蔵されており、1671年にケルン出身の銀行家エバーハルト・ジャバッハからフランス王ルイ14世に購入された経緯があります。また、ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーには、本作の複製が存在しています。

モデルとその背景

この作品のモデルは、ミュンヘン出身の天文学者ニコラウス・クラッツァーです。クラッツァーは1516年にイングランドに渡り、オックスフォード大学で学びました。彼は英語を完璧に話すことはできませんでしたが、1519年にイングランドに定住し、国王ヘンリー8世のもとに仕官しました。肖像画には、当時42歳のクラッツァーが、10面体の日時計を製作している場面が描かれています。周囲には、半円形の象限儀やシェパーズダイヤルなど、数々の天文学器具が配置され、彼の職業を物語っています。また、クラッツァーはトーマス・モアやホルバイン自身の友人であり、トマス・モアの娘たちに天文学を教えたことでも知られています。

作品の特徴

肖像画は斜めを向いた姿が描かれており、これは15世紀のフランドル美術に影響を受けています。従来の胸像スタイルから脱却し、半身像として描くことによって、より現実感を与えています。背景には様々な小道具が描かれており、これがモデルの職業や社会的地位を強調する効果を持っています。このようなスタイルは、16世紀の新しい肖像画技法として見られます。

ホルバインの作品は、詳細な写実性が特徴であり、特に頭部の堅固な彫塑的表現が、容易に一瞬の現実を超越した記念碑的な印象を与える要因となっています。彼の手法は、モデルに対する深い理解と観察が反映されており、見者に対して強いインパクトを残します。

アートの重要性と評価

この肖像画は、ホルバインの作風や16世紀の美術の発展を示す上で、非常に重要な作品とされています。その写実性と新しい技法は、以後の肖像画にも大きな影響を与えました。ニコラウス・クラッツァーの肖像は、ただの人物画に留まらず、時代の精神や人文主義の理念を反映しているとも言えます。

ルーヴル美術館に収蔵されているこの作品は、現代においても多くの人々に感銘を与え続けており、訪問者はその深い歴史的背景と芸術的価値に触れることができる貴重な体験をもたらします。

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