ニコラウス・ジムロック

ニコラウス・ジムロック：音楽出版者、そしてベートーヴェンの友人

ニコラウス・ジムロック（Nikolaus Simrock, 1751年8月23日 - 1832年6月12日）は、ドイツのホルン奏者であり、影響力のある音楽出版者でした。マインツで生まれ、ボンでその生涯を終えました。彼は、ベートーヴェンとの親交、そして自らが設立した音楽出版社「ジムロック社」を通じて、音楽史にその名を刻んでいます。

生涯と音楽家としてのキャリア

ジムロックは、伍長の息子としてマインツに生を受けました。若い頃から音楽に親しみ、16歳になる頃にはフランス軍の教会でホルンを演奏していました。1775年、ケルン選帝侯マクシミリアン・フリードリヒの宮廷楽団に「らっぱ吹き」として採用され、年間300フロリンの報酬を得るようになりました。この楽団で、若きベートーヴェンと出会い、共に演奏することになります。

選帝侯の宮廷では、ジムロックは単なる音楽家としてだけでなく、啓蒙思想の信奉者としても知られていました。フランツ・アントン・リースやクリスティアン・ゴットロープ・ネーフェといった同僚たちと同様に、イルミナティの一組織であるMinervalkirche Stagiraに所属し、組織活動停止後はボンのLesegesellschaftの創立メンバーとなっています。また、1805年にはボンに設立されたメソニック・ロッジ、Les Frères courageuxの一員でもありました。

出版者としての成功

1793年、ジムロックはボンに自身の音楽出版社である「ジムロック社」を設立しました。初期にはベートーヴェンの作品、例えば『赤ずきんの主題による変奏曲』（WoO 66、1793年）や『ヴァルトシュタイン伯爵の主題による変奏曲』（WoO 67、1794年）などを出版しました。ジムロック社の成功は、彼の優れた商業手腕だけでなく、当時の政治情勢も大きく影響していました。フランス革命軍がボンを含むラインラント地域を占領した際、ジムロックはフランス寄りの姿勢を示し、それが事業の発展に繋がったのです。

19世紀初頭には、ジムロック社はヨーロッパ有数の音楽出版社へと成長しました。ジムロック自身の指揮のもと、ハイドンの初版譜や、ベートーヴェンの13作品の初版を世に送り出しました。ベートーヴェンとは個人的な親交もあり、出版を通じて彼の才能を広く紹介することに貢献しました。

ジムロックの死後も、ジムロック社はシューマン（交響曲第3番など）、メンデルスゾーン（オラトリオ『エリヤ』、『聖パウロ』など）といった著名な作曲家の作品を出版し続けました。1870年には、ジムロックの孫であるフリッツ・ジムロックが本社をボンからベルリンに移転し、特にブラームスの作品を積極的に刊行したことで知られています。

家族と遺産

ジムロックは、マインツ出身のフランツィスカ・オッティリー・ブラシェックと結婚し、13人の子供をもうけました。ジムロック一族は、その後200年近くにわたってラインラントの文化史に大きな影響を与えました。息子の一人であるペーター・ヨーゼフ・ジムロックは出版業を営み、別の一人はアレクサンドル・デュマ・ペールも宿泊したホテルTrierer Hofの支配人を務めました。末の息子カールは、古期、中期、そして19世紀のドイツ文学の編集に携わりました。

ニコラウス・ジムロックは、音楽家、出版者として、そして啓蒙思想の信奉者として多面的な才能を発揮し、音楽史、文化史にその名を刻みました。彼の設立したジムロック社は、その後も多くの重要な作品を出版し、音楽文化の発展に大きく貢献しました。

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