ニコラス・スロニムスキー

ニコラス・スロニムスキー（Nicolas Slonimsky, 1894年4月27日 - 1995年12月25日）は、101年の生涯にわたって、作曲家、指揮者、音楽評論家、辞書編集者、作家として活動したロシア系アメリカ人音楽家です。本名はニコライ・レオニードヴィチ・スロニムスキーといい、ロシアのサンクトペテルブルクに生まれました。

ユダヤ系ロシア正教会に改宗した両親のもとに育ち、自身も洗礼を受けました。幼少期には、母方の叔母であるイサベル・ヴェンゲーロヴァからピアノの手ほどきを受けています。

1923年、スロニムスキーはアメリカ合衆国に移住しました。ロチェスターのイーストマン音楽学校に新設されたオペラ部門で伴奏者として働きながら、作曲や指揮法に関する研鑽を積みます。2年後にはボストンに移り、著名な指揮者セルゲイ・クセヴィツキーのもと、ボストン交響楽団で助手としてキャリアを重ねました。これ以前にも、パリでクセヴィツキーの練習ピアニストを務めた経験がありました。このボストン時代には、ボストン音楽院やマルキン音楽院で音楽理論を教える傍ら、ボストン・イヴニング・トランスクリプト紙、クリスチャン・サイエンス・モニター紙、エチュード紙といった媒体に音楽評論を寄稿するなど、評論家としても活動の幅を広げていきました。

スロニムスキーは、特に同時代の音楽、すなわち現代音楽の熱心な擁護者として重要な役割を果たしました。1927年にはボストン室内管弦楽団を創設し、存命中の作曲家に新作を依嘱するなど、積極的に現代作品を取り上げました。指揮者としても、チャールズ・アイヴズの交響曲第3番「ニューイングランドの3つの場所」（1931年）や、エドガー・ヴァレーズの打楽器アンサンブルのための「イオニザシオン」（1933年）といった、20世紀音楽史における画期的な作品の世界初演を成功させています。

彼の功績は演奏や評論に留まらず、音楽文献の分野でも多大なる貢献をしました。1958年には権威ある『ベイカー音楽家人名事典（Baker's Biographical Dictionary of Musicians）』の監修者を引き継ぎ、1992年まで編集主幹を務めました。また、20世紀の音楽界で起こった重要な出来事を網羅した年代記『1900年以降の音楽（Music Since 1900）』を執筆。さらに、音楽評論家たちが名だたる作曲家を辛辣に扱き下ろした記述を集めた『音楽毒舌事典（The Lexicon of Musical Invective）』は、日本語版も出版され（「名曲悪口辞典」）、そのユニークな視点で多くの読者を獲得しました。中でも最も広く知られている著作の一つに、『音階と旋律の型のシソーラス（Thesaurus of Scales and Melodic Patterns）』があります。これは、フランク・ザッパ、ジョン・コルトレーン、ジョン・クーリッジ・アダムズ、バケットヘッドなど、ジャズ、ロック、現代音楽といった多様なジャンルの音楽家に影響を与えたことでも有名です。

門下からは、中国系アメリカ人の著名な民族音楽学者であるシンシア・ツェ＝キンバーリンなどを輩出しています。

スロニムスキーはその多才さだけでなく、親しみやすい人柄やユーモア感覚でも知られていました。自叙伝『絶対音感（Perfect Pitch）』では、クセヴィツキー、アイヴズ、ヘンリー・カウエル、イーゴリ・ストラヴィンスキーといった20世紀アメリカ音楽界の巨匠たちとの交流やエピソードを生き生きと綴っています。晩年には、ロサンゼルスのFMラジオ番組や、人気テレビ番組「トゥナイト・ショウ」に度々出演し、その茶目っ気あふれるトークで視聴者を楽しませました。また、前衛的なロックミュージシャン、フランク・ザッパとの間に独特の友情を育みました。1981年にはサンタモニカで行われたザッパのコンサートで自身の作品が上演されたこともあります。ザッパの娘であるムーン・ザッパから教わった俗語表現を、飼い猫の名前につけるなど、その交流は微笑ましいエピソードとして語り継がれています。甥には作曲家、音楽学者、ピアニストとして活躍したセルゲイ・スロニムスキーがいます。

101歳という長寿を全うし、激動の20世紀音楽史を駆け抜けたスロニムスキーは、その膨大な業績と個性的な魅力で、音楽界に確かな足跡を残しました。

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