ニコラ・ファーゴ

ニコラ・ファーゴ (Nicola Fago)



イタリアバロック音楽の時代、特に17世紀末から18世紀半ばにかけて活躍した作曲家であり、卓越した音楽教師でもあったのが、ニコラ・ファーゴです。彼の生涯と業績は、当時のイタリアにおける重要な音楽都市の一つであるナポリの音楽史と深く結びついています。

生涯と教育者としての足跡



ニコラ・ファーゴは1677年2月26日、イタリア南部の都市ターラントで生を受けました。若い頃から音楽の才能を示した彼は、1693年から1695年にかけて、ナポリに位置する名門音楽教育機関、コンセルヴァトーリオ・デッラ・ピエタ・デイ・トゥルキーニで専門的な音楽教育を受けました。当時のナポリのコンセルヴァトーリオは、優れた音楽家を多数輩出する中心地であり、ファーゴもここで作曲や演奏、音楽理論に関する高度な訓練を積んだと考えられます。

教育課程を終えたファーゴは、やがて自身も音楽教育者としての道を歩み始めます。彼はナポリ市内の複数の主要な音楽教育機関で教鞭をとりました。まず、1704年から1708年までコンセルヴァトーリオ・サントノフリオで教え、その後、彼がかつて学んだコンセルヴァトーリオ・デッラ・ピエタ・デイ・トゥルキーニでは、1705年から1740年という長きにわたり、中心的な役割を果たしました。約35年間にわたり母校で教え続けたことは、彼が教育者として高い評価を受け、多くの後進の指導にあたったことを示唆しています。

さらに、彼は宗教音楽の分野でも重要な職務に就いていました。1709年から1731年まで、サン・ジェンナーロの宝物礼拝堂(テゾーロ・ディ・サン・ジェンナーロ)の楽長を務めていたと記録されています。この職務は、ミサ曲やオラトリオといった教会音楽の作曲・演奏を指揮する重要なポストであり、ファーゴが単に教育者としてだけでなく、実践的な音楽家としても活動していたことを裏付けています。

ニコラ・ファーゴは、教育者そして作曲家としてナポリの音楽界に多大な貢献をした後、1745年2月18日ナポリでその生涯を閉じました。

主要作品



ニコラ・ファーゴは、当時の多様な音楽ジャンルにおいて作品を残しています。彼の作品リストからは、彼が劇場音楽から教会音楽まで、幅広い分野で活動していたことが見て取れます。

彼の主要な舞台作品には、当時のイタリア音楽の中心であったオペラが含まれます。特に「ドランマ・ペル・ムジカ」と呼ばれる形式の作品を複数作曲しました。

『Il Radamista』(1707年)
『L'Astratto』(1709年
『Cassandra Indovina』(1711年)
『Lo Masiello』(1712年)

これらのオペラは、当時のナポリやその他のイタリア都市の劇場で上演されたと考えられます。

また、彼は喜劇オペラである「コンメディア・ペル・ムジカ」も作曲しています。このジャンルは特にナポリで発展し、しばしばナポリ方言が用いられました。

『Le fenzejune abbendurate』(1710年)
『La Cianna』(1711年)

さらに、牧歌的な雰囲気を持つ舞台作品として、「favola pastorale in stile arcadico」形式の『La Dafne』(1714年)も知られています。これは、古代ギリシャ・ローマのアルカディア地方を舞台にした、抒情的で田園的な主題を扱う作品です。

教会音楽の分野では、サン・ジェンナーロでの職務に関連して多くの作品を作曲したと考えられます。現存する、あるいは記録に残る教会音楽作品には以下のようなものがあります。

Magnificat(マニフィカト):10声部と楽器のための大規模な合唱作品。
Stabat Mater(スターバト・マーテル):4声部と弦楽四重奏のための作品。キリストの受難における聖母マリアの悲しみを歌う。
* Il Faraone Sommerso:おそらく、旧約聖書のエジプト王ファラオと紅海渡りの物語を題材にしたオラトリオあるいはカンタータと考えられます。

ニコラ・ファーゴの作品は、バロック後期のイタリア音楽のスタイル、特にナポリ楽派の音楽の特徴をよく示していると考えられます。教育者として多くの弟子を育てるとともに、多様なジャンルで作曲活動を行った彼の存在は、当時のナポリの豊かな音楽文化を理解する上で重要な一端を担っています。彼の詳細な生涯や作品研究は現在も進められていますが、教育者としての長年の貢献と、劇場音楽から教会音楽まで網羅した作曲活動は、彼の音楽家としての幅広さを示しています。

残念ながら、彼の作品が現代において頻繁に演奏される機会は多くありませんが、バロック時代のナポリにおける音楽教育と創作の歴史を知る上で、ニコラ・ファーゴは記憶されるべき重要な人物の一人です。

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