ニトロソスパエラ・ウィエンネンシス

ニトロソスパエラ・ウィエンネンシス (Nitrososphaera viennensis)

ニトロソスパエラ・ウィエンネンシスは、タウム古細菌門に分類される微小な生命体で、アンモニアを酸化してエネルギーを獲得する古細菌（アーキア）の一種です。この微生物は、2011年にオーストリアの首都ウィーンの土壌から初めて分離・単離されました。その発見と純粋培養は、微生物学、特に窒素循環に関わる微生物の研究において重要な進展をもたらしました。

分類と位置づけ

タウム古細菌門は、近年提唱された古細菌の主要なグループの一つであり、地球上の様々な環境に広く生息しています。ニトロソスパエラ・ウィエンネンシスは、このタウム古細菌門において、最初に正式な学名が記載された種として知られています。これは、この門に属する微生物の生態や生理機能を詳細に研究するための道を開く画期的な出来事でした。

アンモニア酸化古細菌の純粋培養例としては、海洋環境から見出された「Nitrosopumilus maritimus」に続いて2例目にあたります。この点は、アンモニア酸化を行う微生物が、細菌だけでなく古細菌の中にも存在し、さらに生息環境によって異なる種が存在することを示す重要な発見となりました。

ニトロソスパエラ・ウィエンネンシスは、土壌から高頻度で検出される「Soil group I.1b」と呼ばれる系統グループに属すると推定されており、これは土壌環境におけるアンモニア酸化古細菌の主要なメンバーであることを示唆しています。

形態と性質

本種は、比較的小さな単細胞生物であり、その細胞の大きさは約0.6マイクロメートルから0.9マイクロメートル程度です。細胞の形状は規則的な球形ではなく、やや不定形な球状であることが特徴です。

生理的な性質としては、常温、すなわち中温域を好む中温性微生物です。エネルギー源としてアンモニアを利用し、これを亜硝酸へと酸化する化学合成独立栄養生物です。驚くべきことに、この微生物は比較的高いアンモニア濃度が存在する環境においても、良好な生育を示すことが確認されています。この特性は、アンモニアが豊富な土壌環境への適応を示唆しています。

生息環境と学名の由来

ニトロソスパエラ・ウィエンネンシスは、その発見場所からも明らかなように、土壌環境に生息する土壌性アンモニア酸化古細菌です。先に発見された培養例である「Nitrosopumilus maritimus」が海洋性であるのに対し、本種は陸上の生態系、特に土壌における窒素循環の担い手として重要な役割を果たしていると考えられています。

学名である Nitrososphaera viennensis は、その特徴と発見地に由来しています。
Nitroso- は、アンモニア（または窒素化合物）を酸化する能力を示唆します。
-sphaera は、「球体」を意味し、その細胞が球状であることを表しています。
viennensis* は、「ウィーン産の」という意味で、ウィーンの土壌から発見されたことにちなんでいます。

つまり、学名は「ウィーンから発見された、アンモニアを酸化する球菌」といった意味が込められています。

研究の意義

ニトロソスパエラ・ウィエンネンシスの純粋培養と詳細な性質の解析は、これまで研究が難しかったタウム古細菌門、特に土壌性アンモニア酸化古細菌の生態や生理、遺伝子構成を理解する上で極めて重要です。土壌における窒素循環、特に硝化作用の最初のステップであるアンモニアの酸化は、植物の栄養吸収や温室効果ガスである亜酸化窒素の発生に関わる根幹的なプロセスであり、本種の発見と研究はこれらの環境プロセスへの理解を深めることに貢献しています。

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