ニューヨーク州対ファーバー事件

ニューヨーク州対ファーバー事件の概要

ニューヨーク州対ファーバー事件（New York v. Ferber）は、アメリカ合衆国の刑事事件の中で児童ポルノの規制が憲法にどう適合するかが問われた重要なケースです。本事例では、合衆国最高裁判所が児童ポルノが表現の自由として保護されるものかどうか、また、どのような形で規制できるかを判断しました。

事件の背景

1977年、ニューヨーク州で施行された刑法第263条は、16歳未満の児童の性的行為が含まれる映像や写真の製作、頒布を厳しく禁止しました。この法律には、猥褻性を含むものを禁じる規定と、猥褻性を問わない広範な規定がありました。しかし、1973年の判例であるミラー対カリフォルニア州事件では、猥褻物の頒布を規制することが合憲であるとされており、その中で表現の自由が侵害されないように規制を厳格にすることが求められました。このため、ニューヨーク州刑法第263条第15項が違憲とされる可能性もありました。

事件の経過

1980年、ポルノショップの経営者ポール・ファーバーは、おとり捜査により、少年の自慰を録画したビデオを私服刑事に販売し、刑法第263条に違反したとして起訴されました。陪審によって有罪と判決され、その後の控訴でも維持されました。しかし、ニューヨーク州上訴裁判所は、第15項が猥褻性を基準にしていないため、社会的かつ芸術的価値のある作品までが規制される可能性があるとし、規定が過剰であるとの判断を下しました。

この結果、ファーバーは第15項に関して無罪とされ、州検察が合衆国最高裁判所に上告しました。1982年7月、最高裁判所は全会一致でニューヨーク州刑法第263条第15項を合憲と認め、上訴裁判所の決定を覆しました。

判決の要旨

合衆国最高裁判所の判決では、児童ポルノが本質的に児童に対する虐待であり、その製作や頒布を規制することは立法の目的として十分に正当であるとされました。児童ポルノの存在は、児童の精神的健康に有害であり、猥褻性を持つものだけを制限することでは問題の根本的解決には至らないという主張が採用されました。

自らの営利目的で児童ポルノを販売することは、児童の利用を助長する結果となり、道徳的および倫理的に重大な問題を引き起こす要因となることも指摘されました。そもそも、児童ポルノは通常、重要な価値を持つとは考えられておらず、万が一、芸術的価値を認められる場合でも他に合理的な選択肢があるとされました。

影響とその後

この歴史的な判決を受けて、1984年にはアメリカ合衆国議会が児童ポルノの頒布規制をさらに強化しました。1990年には、合衆国最高裁判所が児童ポルノの所持を禁止する州法を合憲とする判決を出すなど、この事件は児童保護にかかわる法的枠組みや道徳観に大きな影響を与えました。

ニューヨーク州対ファーバー事件は、表現の自由と児童の権利保護とのバランスを考えさせる重要な判例となり、今日に至るまで多くの議論を呼んでいます。

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