ニードフル・シングス

スティーヴン・キング『ニードフル・シングス』

スティーヴン・キングによる長編ホラー小説『ニードフル・シングス』（原題：Needful Things）は、1991年に発表されました。キング作品にしばしば登場する架空の町、メイン州キャッスルロックを舞台に、人間の内面に潜む欲望や悪意が引き起こす恐怖を描いた作品です。

あらすじ

物語は、キャッスルロックの町に突如として開店した一軒の古物店「ニードフル・シングス」から始まります。この店の店主、リーランド・ゴーントは、非常に謎めいた人物です。彼は店を訪れる人々に、彼らが心の底から強く求めている、あるいは決して手に入らないと諦めていた「特別な品物」を見つけ出します。それは単なる物品だけでなく、思い出の品や、失われた愛の証、あるいは競争相手を出し抜くための秘密のアイテムなど、それぞれの客にとって文字通り「ニードフル・シングス」（必要なもの、どうしても欲しいもの）なのです。

しかし、ゴーントはこれらの品物を法外な金額で売ることはありません。その代わり、彼は客に対して「代金の一部」として、町に住む別の誰かに対してささやかな「いたずら」を仕掛けるよう要求します。これらの「いたずら」は、初めは無害に見えるかもしれません。例えば、ある家の洗濯物にペンキをかける、別の家の庭に骨を埋めて犬を騒がせる、といった些細な嫌がらせです。しかし、ゴーントが巧妙に仕組んだこれらの行為は、互いに疑心暗鬼を生み出し、町の人々の間に長年積み重ねられてきた小さな不満や嫉妬、憎悪を煽り立てていきます。

ゴーントの企みにより、町の人々は次第に理性を見失い、かつての隣人や友人に対して、より悪質で暴力的な行為に及ぶようになります。些細な口論が大きな喧嘩に発展し、隣人同士の対立が激化し、やがて町全体を巻き込む大規模な混乱と暴動へとエスカレートしていきます。キャッスルロックは、ゴーントが仕掛けた「いたずら」という名の悪意の連鎖によって、自滅への道を突き進んでいくのです。

主要登場人物

アラン・パングホーン: キャッスルロックの保安官であり、本作の中心人物です。数年前に痛ましい交通事故で妻子を失った過去を持ち、町の平穏を守ろうと奮闘します。町で起こる異常な出来事の背後にある真実にいち早く気づき、ゴーントの悪行を止めようとします。
リーランド・ゴーント: 古物店「ニードフル・シングス」の店主。人間の欲望と悪意を餌とする存在であり、その正体は悪魔的な存在であることを示唆しています。冷静沈着で、言葉巧みに人々を操り、町を混沌に陥れます。
ポリー・チャルマーズ: アランの恋人。アランにとって心の支えとなる存在ですが、彼女自身もまたゴーントの魔手に触れることになります。
エース・メリル: キャッスルロックの住人。過去のキング作品、特に中編『スタンド・バイ・ミー』（原作『屍体』）にも悪役として登場した人物で、本作では中年となった姿が描かれています。ゴーントによって容易に懐柔され、彼の企みに深く関与していきます。

日本語版

日本語版は、芝山幹郎氏の翻訳で文藝春秋より刊行されています。

単行本: 1994年6月に上下巻で発売されました。（上: ISBN 978-4163147802, 下: ISBN 978-4163147901）
文庫本: 文春文庫より、1998年7月に上下巻で文庫化されています。（上: ISBN 978-4167148157, 下: ISBN 978-4167148164）

映画化

本作は1993年に映画化されています。監督はチャールトン・ヘストンの息子であるフレイザー・C・ヘストンが務めました。W・D・リクターが脚本を担当し、原作の世界観を映像化しています。

主なスタッフ:

監督: フレイザー・C・ヘストン
製作総指揮: ピーター・イエーツ
製作: ジャック・カミンズ
原作: スティーヴン・キング
脚本: W・D・リクター
撮影: トニー・ウェストマン
* 音楽: パトリック・ドイル

『ニードフル・シングス』は、人間の弱さや欲望が、いかに容易に破壊的な力を持ちうるかを描き出す、キングのホラー作品の中でも特に社会的な側面が強い一作と言えるでしょう。小さな悪意が町の平穏を根底から覆す様子は、読者に強烈な印象を与えます。

（関連情報：allcinema, KINENOTE, オールムービー, IMDb に本作に関するページが存在します。）

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