ニールス・イェルネ

ニールス・カイ・イェルネ（1911年12月23日 - 1994年10月7日）は、英国ロンドンに生まれたデンマークの免疫学者です。免疫系の働きを理解するための画期的な理論を提唱し、特に免疫制御機構に関する理論の確立と、ジョルジュ・J・F・ケーラー、セーサル・ミルスタインらによるモノクローナル抗体の作成法開発への貢献が認められ、1984年に彼らと共にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

彼の家族はもともとデンマーク西部のファノ島にルーツを持ちますが、両親は1910年にロンドンへ移住し、翌年イェルネが誕生しました。第一次世界大戦が勃発すると、一家はオランダへ移り住み、彼は少年期をロッテルダムで過ごしました。大学では当初、ライデン大学で物理学を学びましたが、後に退学。デンマークのコペンハーゲンへ転居し、コペンハーゲン大学医学部に入学して研究対象を医学へと転換しました。在学中の1935年に最初の妻チェックと結婚し、二人の子供をもうけましたが、この時期は実家からの経済的援助に頼り、享楽的な生活を送っていたと言われています。医学の学位を取得したのは、30歳を超えた1942年でした。

個人的な悲劇も経験しました。1946年には、彼の派手な女性関係が原因の一つとなり、妻チェックが自らの命を絶つという出来事がありました。なお、妻も別の芸術家との不倫関係にあったとされています。

卒業後、1943年から1956年までデンマーク国立血清研究所で研究員として勤務しました。ここで、ジフテリアの抗毒素の物理化学的性質に関する重要な業績を残しました。特に、抗体がどのように作られるかという理論的な着想は、自転車でコペンハーゲンの橋（Langebro）を渡っている最中にひらめいたという逸話があります。この抗体形成に関する理論は国際的に高く評価され、彼のキャリアを大きく開くきっかけとなりました。

1956年には国際連合の機関である世界保健機関（WHO）に招聘され、ジュネーブで生物学的標準品セクションおよび免疫学セクションの責任者を務めました。WHOで約6年間勤務した後、活躍の場をアメリカ合衆国に移し、ピッツバーグ大学で微生物学の教授および学部主任として4年間教鞭をとりました（その後もWHOの免疫学に関する諮問委員会のメンバーとして活動を続けました）。

1966年にヨーロッパに戻り、ドイツのフランクフルト大学で実験治療学の教授に就任しました。さらに1969年には、スイスのバーゼルに設立されたバーゼル免疫学研究所の所長として招かれ、1980年に引退するまでその職を務め、研究所を国際的な免疫学研究拠点へと発展させました。

彼の科学への貢献は広く認められ、ノーベル賞以外にも多くの栄誉を受けています。1970年にガードナー国際賞、1982年にはパウル・エールリヒ&ルートヴィヒ・ダルムシュテッター賞を受賞しました。また、シカゴ大学、コロンビア大学、コペンハーゲン大学、バーゼル大学、エラスムス大学などから多数の名誉博士号を授与されています。さらに、アメリカ芸術科学アカデミー、デンマーク王立科学文学アカデミー、米国科学アカデミー、ロンドン王立協会、フランス科学アカデミーといった各国の権威ある学会の外国人会員やフェローに選出されており、現代免疫学における彼の多大な影響力と国際的な評価を物語っています。

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