ヌルディン・ファラー

ヌルディン・ファラー：ソマリアの文豪、その生涯と作品世界

ヌルディン・ファラーは、1945年11月24日、ソマリアのバイドアで商人の家庭に生まれました。彼の母は詩人であり、ファラーの創作活動に大きな影響を与えたと言われています。ファラーは幼少期をオガデン地方ケラフォで過ごし、英語、アラビア語、アムハラ語を学びました。1963年にはエチオピアとの国境紛争に徴兵される経験もしています。

初期にはソマリ語で短編小説を発表していましたが、インドのパンジャーブ大学に留学中に執筆した『曲がった肋骨から』(1970年)で英語での執筆を始め、作家としてのキャリアを本格的にスタートさせました。この作品は彼の代表作の一つとして高く評価されています。

1973年、ソマリアがラテン文字を採用したことを受けて、多くのソマリ人作家が活発に創作活動を始めました。しかし、ファラーの作品は同年発禁処分となり、彼は祖国を離れて亡命生活を送ることになります。アメリカ、ドイツ、イタリア、スウェーデン、スーダン、インド、ナイジェリアなど世界各国の大学で文学を講義しながら、執筆活動を続けました。

ファラーの作品には、個人、家族、そして国家という三つの視点から探求されるアイデンティティという重要なテーマが貫かれています。彼の小説は、ソマリアの内戦や政治的混乱といった社会情勢を背景に、複雑で多層的な人間ドラマを描いています。特に『むきだしの針』(1976年)などは、重要な文学的偉業として高く評価されています。

ファラーの才能は国際的に認められ、1998年にはノイシュタット国際文学賞を受賞。また、第60回ベルリン国際映画祭では審査員を務めるなど、世界的な活躍を見せています。しかし、彼の姉であるバスラは2014年1月、アフガニスタンでタリバンのテロの犠牲となったという悲しい出来事もあります。

ファラーの作品リストには、『なぜそんなに早く死ぬのか？』(1965年)、『真空の中の短剣』(1965年)、『曲がった肋骨から』(1970年)、『むきだしの針』(1976年)、『甘酸っぱいミルク』(1979年)、『イワシ』(1981年)、『開けゴマ』(1983年)、『地図』(1986年)、『贈り物』(1993年)、『秘密』(1998年)、『領土』(2000年)、『昨日、明日：ソマリア・ディアスポラからの声』(2000年)、『リンクス』(2004年)、『結び目』(2007年)、『クロスボーンズ』(2011年)など、多くの小説が含まれます。これらの作品は、ソマリアの複雑な歴史と文化、そして人間の普遍的な苦悩を深く掘り下げており、世界中の読者から高い評価を受けています。

ヌルディン・ファラーは、ソマリアの文豪として、そして国際的に活躍する作家として、文学史に大きな足跡を残しました。彼の作品は、ソマリアを知る上で重要な手がかりとなるだけでなく、普遍的な人間性を問いかける力強いメッセージを私たちに届けてくれます。彼の功績は、ノーベル文学賞にもっとも近い作家たちとして高く評価されています。

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