ネヘミヤ記

『ネヘミヤ記』は、旧約聖書を構成する歴史書の一つであり、古代イスラエルの歴史、特にバビロン捕囚後の出来事を詳細に記した書物です。キリスト教では『エズラ記』に続く歴史書として位置付けられていますが、ユダヤ教では『諸書』という分類に属します。

興味深いことに、『エズラ記』と『ネヘミヤ記』は、かつて一つの書物として扱われていたという説が有力です。その根拠は、両書に共通する物語の連続性や、登場人物の重複にあります。さらに、古代ギリシャ語訳聖書である『70人訳聖書』の『エスドラ書』の中にも、両書と内容が重複する部分が見られます。

これらのことから、『歴代誌』『エズラ記』『ネヘミヤ記』は、同一の著者グループ、いわゆる「歴代誌史家」によって記されたとする説が定説となっています。しかし、この説には異論も存在します。特に、ネヘミヤ記の一部が一人称で記述されている点に着目し、ネヘミヤ自身の回顧録が元になっている可能性も指摘されています。そのため、それぞれの記述が異なる著者によるものであるという解釈も、完全に否定されているわけではありません。

書名の由来となっているネヘミヤは、バビロン捕囚後のペルシャ帝国において、エルサレムの総督または宦官として重要な役割を果たした人物です。彼はエルサレムの城壁を再建し、ユダヤ民族の復興に多大な貢献をしました。

『ネヘミヤ記』の内容は大きく分けて二つの部分に区分できます。前半（1章～7章）では、ネヘミヤのエルサレムへの派遣、そしてエルサレムの城壁再建における彼の活躍が克明に描かれています。ネヘミヤの尽力によって、荒廃したエルサレムの城壁は見事に修復され、ユダヤ民族の安全と生活基盤が確保されました。

後半（8章～13章）では、律法の公布とそれに伴う民衆の反応、そして城壁完成後の奉献式などが描かれています。律法の朗読を通して、ユダヤ民族の宗教的・倫理的復興が図られ、信仰の再構築が試みられました。この部分では、ネヘミヤによる宗教的指導や社会改革の様子が、具体的なエピソードと共に生き生きと描かれています。

『ネヘミヤ記』は、単なる歴史記録にとどまらず、信仰の回復と民族の復興をテーマにした物語として、現代においても多くの読者を魅了し続けています。ユダヤ民族の苦難と希望、そして信仰の力を示す重要な聖典として、その価値は今もなお色褪せることはありません。ネヘミヤのリーダーシップや、困難に立ち向かう民衆の姿は、現代社会における課題解決や社会貢献を考える上でも、貴重な示唆を与えてくれるでしょう。

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