ネペンテス・トランカータ

ネペンテス・トランカータ（Nepenthes truncata）

ネペンテス・トランカータは、ウツボカズラ科に属する食虫植物で、フィリピンのミンダナオ島に固有の種です。この植物の最大の特徴は、その独特な葉の形状と、非常に大きな捕虫袋です。

特徴

ネペンテス・トランカータは、他の多くのウツボカズラとは異なり、茎が蔓状には伸びません。通常、30cmから50cmほどの高さまで直立し、茎の直径は1cmから2cm程度で、多数の剛毛に覆われています。葉は互い違いに生え、葉柄は5cmから8cmの長さで、深い縦溝があり、茎を抱き込むように付いています。葉身は10cmから20cmの長さ、幅6cmから10cmで、中央の葉脈に沿ってV字型に折れ曲がります。葉の先端はほぼ直角に切れ込んでおり、全体として軍配のような形をしています。葉の質感は厚く、硬いのが特徴です。

捕虫袋は細長い円筒形で、下部がやや膨らんだ漏斗状をしており、蔓につながっています。袋の腹面には2本の縦翼があり、房飾りが付いています。縁歯は平たく、幅は3cmから8cmに及びます。捕虫袋の大きさは、この属の中でも特に大きく、よく育つと2リットルのペットボトルほどのサイズになることもあります。2022年8月には、兵庫県立フラワーセンターで栽培された個体が、55.5cmの大きさで「世界最大の捕虫袋を持つウツボカズラ」としてギネス世界記録に認定されました。

種小名の「truncata」は「截形の」という意味で、これは葉の形状に由来しています。

分布と生育環境

ネペンテス・トランカータは、フィリピンのミンダナオ島にのみ自生する固有種です。分布範囲は低地から海抜1000mまでと比較的広いですが、湿度の高い場所に限られます。日当たりの良い崖や樹木に着生して生育します。ミンダナオ島の東部では低地でも湿度が高いため、低地でも見られますが、北西部では標高の高い雲霧林帯に限定されます。日射しを好み、二次林や開墾地では地上に、暗い森林では樹上に着生します。

利用

ネペンテス・トランカータは、その巨大な捕虫袋が観賞価値を高め、栽培されることが多くなりました。特に、巨大な捕虫袋を作る種としては、オオウツボカズラ(N. rajah)やネペンテス・メリリアナ(N. merrilliana)が有名ですが、これらの種が丸みを帯びた袋を作るのに対し、本種は円筒形で細長く、長さではこれらの種を凌ぐこともあります。特に大きく育つ系統では、50cmを超える捕虫袋をつけることもあります。

また、本種は茎が蔓状に伸びず、まとまった姿になるのも特徴です。多くのウツボカズラの種は茎が数メートルにも伸びてしまい、家庭での鉢植え栽培では扱いに困ることが多いですが、本種はその点においても優れています。この特性から、交配親としても重視されています。さらに、低温と乾燥にも比較的強く、冬場でも7℃程度の気温があれば越冬できます。

歴史的な評価

近藤・近藤(1972)の文献では、本種の捕虫袋は平凡で、葉の形状が独特であることが鑑賞価値とされていましたが、当時はその真の価値は十分に理解されていませんでした。掲載されている写真も、捕虫袋が十分に特徴を示さない幼いものでした。しかし、土居(2014)の文献では、巨大な捕虫袋を持つ複数の系統が紹介され、交配品種も多く登場しています。これにより、ネペンテス・トランカータの魅力が広く認識されるようになりました。

参考文献

近藤勝彦・近藤誠宏『カラー版 食虫植物図鑑』(2006)、家の光協会
近藤誠宏・近藤勝彦、『食虫植物 入手から栽培まで』、(1972)、文研出版
田辺直樹『食虫植物の世界 魅力の全てと栽培完全ガイド』(2010)、(株)エムピージェー
土居寛文、『ネペンテスとその仲間たち 食虫植物ハンドブック』、(2014)、双葉社

もう一度検索