ネワール仏教

ネワール仏教について

ネワール仏教（Newar Buddhism）は、ネパールのカトマンズ盆地で暮らすネワール族によって広く信仰されている密教の一派であり、特に独自の社会宗教的要素や儀礼が発展してきました。この宗教は、ネワール族のカーストと父系社会に基づく非出家僧院的な構造を持っています。僧侶階級であるヴァジュラーチャールヤ（金剛阿闍梨）やシャーキャが主に信仰を担い、彼らは妻帯する僧侶として機能します。一方で、ウラエ（在家）カーストをはじめとする信者層も存在し、チベット密教や上座部仏教、台密にも布施を行っています。興味深いことに、ネワール仏教は知られる密教の宗派の中でも最も古いものであり、チベット密教よりも600年以上も遡る存在です。また、他の宗派がサンスクリット語を多く使用する中で、ネワール仏教は現在でもサンスクリット語を用いています。

歴史的な背景

ネパールのカトマンズ盆地で仏教が盛んだったのは約1000年間であり、仏教の伝来から中世の時代まで続きました。しかし、15世紀に入ると、カシミールやインドネシアのインド仏教が衰退するつれて、この地域の仏教も変化を遂げました。この過程で、ネワール仏教は独自の文化的・言語的特性を持つ形に進化し、インド仏教の要素を取り入れるようになりました。

現況

現在、ネワール族の人口は約125万人で、その20%がネワール仏教を信仰していると東京外国語大学の石井溥が推測しています。ヒンドゥー教徒も同じく20%を占め、残りの60%は他の信仰体系を持つ人々です。ネワール仏教徒は主にカトマンズ近郊に集中する一方で、ヒマラヤ地域にはチベット仏教徒が多く分布しています。彼らは「儀礼仏教」として特徴づけられ、古代からの儀式を大切にし、ヒンドゥー教と共存してきましたが、形式化が進み衰退の傾向も見られます。

1980年代以降、一部のヴァジュラーチャールヤたちは、仏教舞踏を一般信者に伝授し始め、保守層との間で意見の対立が生じましたが、儀礼の存続を危惧する声から徐々に許容されつつあります。それとは別に、新しい信仰運動も発生し、檀家階級からは従来の価値観に対抗する動きもあります。

信仰の特徴

ネワール仏教には、顕教と密教の両面が存在します。観音やマツェンドラナートといった神格も信仰されており、こちらは12世紀以降に顕れた信仰形態です。また、特有の供養に「九法（ナヴァ・ダルマ）」と呼ばれる、九つの大乗仏典に基づく儀礼があり、儀礼の中で三宝への帰依も示されます。

仏教的な守護尊や菩薩信仰も顕著で、観音菩薩や文殊菩薩は特に人気です。また、ヴァスダーラーや般若波羅蜜に象徴される女神信仰もあり、豊穣や智慧をもたらすと信じられています。

芸術と祭礼

ネワール仏教の芸術には、細やかな儀式や美的伝統があります。仏塔、仏像、ポーバ絵画、砂曼荼羅が特に有名です。また、祭礼も盛んで、カトマンズ盆地の主要な都市で行列や礼拝が行われます。「サンミャク」や「グンラ月」などの祭事は、仏像を披露したり、特別な儀式を行う機会となります。

結論

ネワール仏教は、ネパールの宗教文化の中で特異な存在/独自性を持ち、特に儀礼や信仰の実践において多様性を示しています。その背景には、長い歴史と地域社会との密接な関係があることが強調されます。近年の変化も含め、ネワール仏教の未来は興味深い観察対象です。

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