ノッティング・ヒルビリーズ

ノッティング・ヒルビーズ (Notting Hillbillies)

イギリスで一時的に活動した音楽プロジェクト、ノッティング・ヒルビーズは、特定の期間に集結しユニークなサウンドを生み出したロックバンドです。このグループの中心となったのは、世界的な成功を収めたバンド、ダイアー・ストレイツを率いたことで知られるギタリスト兼ボーカリストのマーク・ノップラーです。彼と共に、ダイアー・ストレイツのキーボーディストであるガイ・フレッチャーが参加しました。さらに、マーク・ノップラーが以前から親交があったミュージシャン仲間、スティーヴ・フィリップスとブレンダン・クロッカーという二人のギタリスト兼ボーカリストも加わり、個性豊かなカルテットが誕生しました。

ノッティング・ヒルビーズが活動を開始するきっかけは、ギタリストの一人であるスティーヴ・フィリップスが自身のソロ作品を制作する構想を持っていたことに端を発します。フィリップスのプロジェクトに音楽プロデューサーとして関わっていたマーク・ノップラーが、これを個人の名義による作品としてではなく、気の置けない仲間たちとの共同作業によるバンド形式で進めることを提案したのが、このプロジェクトが具体的に動き出す契機となりました。こうした成立の経緯からも、このバンドは単にダイアー・ストレイツのメンバーによるサイドプロジェクトという位置づけではなく、商業的な側面以上に、マーク・ノップラー自身が純粋に音楽を楽しみ、気の合う仲間と演奏することを目的とした、趣味的な側面が強く反映されたプロジェクトであったと言えます。

中心メンバーは以下の4名で構成されていました。

マーク・ノップラー (Mark Knopfler)：バンドのサウンドの中心となるボーカルとギターを担当しました。ダイアー・ストレイツで確立した彼の独特なフィンガーピッキング奏法や抑制の効いたボーカルは、このバンドのルーツ音楽に根差したサウンドにおいても重要な要素となりました。
ガイ・フレッチャー (Guy Fletcher)：キーボードとボーカルを担当。ダイアー・ストレイツでの経験を生かし、バンドの楽曲に彩りと厚みを与えました。
スティーヴ・フィリップス (Steve Phillips)：ギターとボーカルを担当。自身のソロ構想から始まったプロジェクトであり、ブルースやカントリーといったルーツ音楽への深い造詣を持つギタリストとして、バンドに独自の音楽性を持ち込みました。
ブレンダン・クロッカー (Brendan Croker)：ギターとボーカルを担当。スティーヴ・フィリップスと同様にマーク・ノップラーの友人で、ブルースやアメリカーナ音楽に影響を受けたギタリストでした。残念ながら、彼は2023年にこの世を去っています。

彼らの最も顕著な活動は、1990年に発表された唯一のスタジオ・アルバム『ミッシング (Missing...Presumed Having a Good Time)』のリリースです。このアルバムはヨーロッパを中心に高い評価を受け、各国の音楽チャートで上位にランクインするなど、商業的にも大きな成功を収めました。アルバムからは、数曲がシングルカットされ、ラジオなどでオンエアされました。

アルバムの成功を受けて、ノッティング・ヒルビーズは1990年に集中的なライブ活動を行いました。主に1000人規模の中規模ホールを中心としたヨーロッパ・ツアーを敢行し、ファンに彼らの音楽を届けました。大規模会場ではなく、比較的親密な空間での演奏を選んだことは、プロジェクトの性格を反映しているとも言えます。また、いくつかの著名な音楽フェスティバルにもゲストとして出演し、その存在感を示しました。

しかし、この集中的な活動期間の後、ノッティング・ヒルビーズとしての新たなスタジオ録音や本格的なツアーは行われなくなりました。彼らの活動は散発的なものとなり、主に特定のチャリティイベントや友人間のセッションといった形式で、ライブを行うために一時的にメンバーが集結する形での再結成が数回行われたに留まっています。これは、繰り返しになりますが、バンドがマーク・ノップラーにとって継続的なキャリアを追求するプロジェクトではなく、純粋に音楽を楽しむための場であったという性格が強かったためと考えられます。

スタジオ録音やライブにおいては、中心メンバーの4人以外にも、多くのサポートミュージシャンがバンドのサウンドを支えました。1990年のスタジオ・アルバムやそれに続くツアーには、ペダル・スティール奏者のポール・フランクリンが参加し、その独特な音色で楽曲に深みを与えました。また、ベーシストのマーカス・クリフ、そして特定のライブ公演（例えば2002年の4公演）に参加したドラマーのエド・ビックネルなどが、バンドの演奏を支えました。1990年には、サクソフォーン奏者のクリス・ホワイトも一時的に参加しています。

ノッティング・ヒルビーズの公式なディスコグラフィは以下の通りです。

スタジオ・アルバム

『ミッシング』 - Missing...Presumed Having a Good Time (1990年)

シングル

"Your Own Sweet Way" (1990年)
"Feel Like Going Home" (1990年)
"Will You Miss Me" (1990年)

ノッティング・ヒルビーズは、一般的な意味での継続的なバンド活動を行ったグループではありませんでしたが、短期間に集中して活動し、特にヨーロッパで成功を収めたアルバムを残しました。マーク・ノップラーを中心とした、気の置けない友人たちとの音楽的遊び心が形になったこのプロジェクトは、そのユニークな成り立ちと限られた活動期間によって、音楽史において独特な立ち位置を占めていると言えるでしょう。彼らが残したアルバムは、今もなお、ルーツ音楽や熟練したミュージシャンによる演奏を愛するファンによって聴き継がれています。

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