ノルベルト・ブルグミュラー

アウグスト・ヨーゼフ・ノルベルト・ブルクミュラー（August Joseph Norbert Burgmüller, 1810年2月8日 - 1836年5月7日）は、19世紀ロマン派の時代に活躍したドイツの作曲家です。現在のデュッセルドルフに生まれ、アーヘンで短い生涯を終えました。彼の家系は音楽と縁が深く、父ヨハン・アウグスト・フランツ・ブルクミュラーはデュッセルドルフ市の音楽監督を務め、著名な音楽イベントであるニーダーライン音楽祭の創設者としても知られる人物でした。また、兄ヨハン・フリートリッヒ・フランツ・ブルクミュラーは、日本でもピアノ学習者のための優れた教則本として広く知られています。ノルベルトは、この音楽一家の次男として生を受けました。

早世の天才の生涯

幼少の頃より、ノルベルトは父フランツの手ほどきを受けて音楽の基礎を学びました。その類稀な音楽的才能は早くから顕れ、周囲の期待を集めます。彼はさらに専門的な研鑽を積むため、1826年から1831年にかけてカッセルへと赴きました。この地で彼は、高名な音楽理論家であるモーリッツ・ハウプトマンと、当時のヴァイオリン界の巨匠であり作曲家でもあったルイ・シュポーアに作曲を師事しました。彼らの指導のもと、ブルクミュラーの作曲技法は磨かれていきました。

しかし、彼は特定の音楽機関や役職に就くことはなく、自身の音楽を追求し、同時代の音楽家たちとの交流の中で過ごしました。自由な創作活動に身を置く一方で、彼の人生は予期せぬ形で幕を閉じます。1836年5月7日、健康上の理由で療養中だったアーヘンで、彼は入浴中に突然てんかん発作を起こし、そのまま溺れて命を落としてしまいました。僅か26歳という若さでした。

彼の早過ぎる死は、当時の音楽界に大きな衝撃と悲しみをもたらしました。特に、同時代の著名な作曲家たちは、彼の才能とその喪失を深く悼みました。フェリックス・メンデルスゾーンは、ブルクミュラーのために「葬送行進曲 作品103」を作曲し、友人への哀悼の意を表しました。また、ロベルト・シューマンも、彼の死を「シューベルトが31歳でこの世を去って以来、ブルクミュラーの早世ほど悲しい出来事はなかった」と語り、その非凡な才能の喪失を惜しみました。シューマンはさらに、ブルクミュラーが作曲途中で遺した「交響曲第2番」の未完成部分（第3楽章まで）を補筆し、その作品を後世に伝える役割を果たしました。

主要作品

ブルクミュラーは短い生涯ながらも、様々なジャンルにわたり質の高い作品を数多く残しました。彼の作品には、ロマン派初期の抒情性と古典的な形式美が融合した独自の魅力があります。以下のリストは彼の主要作品の一部です。なお、作品番号は必ずしも作曲順を示すものではなく、出版の際に便宜的につけられたものです。

オーケストラ作品

交響曲第1番 ハ短調 作品2 (1831-33)
交響曲第2番 ニ長調 作品11 (1834/35、シューマン補筆完成、第3楽章まで)
序曲 ヘ短調 作品5 (1825)
4つの間奏曲 作品17 (1827/28)

協奏曲

ピアノ協奏曲 嬰ヘ短調 作品1 (1828/29)

室内楽曲

弦楽四重奏曲第1番 ニ短調 作品4 (1825)
弦楽四重奏曲第2番 ニ短調 作品7 (1825/26)
弦楽四重奏曲第3番 変イ長調 作品9 (1826)
弦楽四重奏曲第4番 イ短調 作品14 (1835)
クラリネットとピアノのための二重奏曲 変ホ長調 作品15 (1834)

ピアノ曲

ソナタ ヘ短調 作品8 (1826)
ワルツ 変ホ長調 (1827)
マズルカ ホ長調
ポロネーズ ヘ長調 作品16 (1832)
ラプソディ ロ短調 作品13 (1834)

歌曲

6つの歌 作品3
5つの歌曲 作品6
5つの歌 作品10 (第4曲は自身で作詞)
* 5つの歌曲 作品12

遺された功績

ブルクミュラーの音楽は、彼の早世によって十分な評価を受ける機会が限られてしまいましたが、メンデルスゾーンやシューマンといった当時の巨匠たちがその才能を高く評価し、作品の完成に貢献したことは、彼の音楽が持つ価値を物語っています。特に、シューマンが彼の死をシューベルトの死になぞらえて悼んだ言葉は、ブルクミュラーがもし長命を保っていたなら、どれほど偉大な作曲家になったであろうか、という想像を掻き立てずにはいられません。彼の残した作品は、短いながらも充実した創作活動の証であり、ロマン派初期の知られざる珠玉として、今日でもその魅力が再認識されつつあります。兄フランツの教則本ほど広くは知られていないかもしれませんが、ノルベルトの作品にもまた、聴く者を惹きつける独特の響きがあります。

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