ノーフォーク焼き討ち

ノーフォーク焼き討ち：アメリカ独立戦争初期の悲劇

ノーフォーク焼き討ち（英: Burning of Norfolk）は、アメリカ独立戦争中の1776年1月1日に、現在のバージニア州ノーフォーク港で発生した事件です。イギリス海軍の艦船による砲撃と、その後の上陸部隊による焼き討ち、そして愛国者部隊による略奪と破壊によって、ノーフォークの町は壊滅的な被害を受けました。この事件は、独立戦争の複雑な側面を示す一例として、その後の歴史に大きな影響を与えました。

背景：緊張の高まり

1775年4月、マサチューセッツ湾植民地でレキシントン・コンコードの戦いが勃発し、アメリカ独立戦争が始まりました。これとほぼ同時期に、イギリス領バージニア植民地でも緊張が高まっていました。植民地議会を支配していた愛国者（ホイッグ）側は徴兵を開始し、軍需物資の支配を巡って動き出していました。

植民地総督のダンモア卿は、イギリス軍にウィリアムズバーグの倉庫から火薬をイギリス海軍の艦船に移すよう命じました。この出来事は愛国者側の議員を刺激し、民兵隊の蜂起を促すことになりました。その後、ダンモア卿は自身の安全を恐れてウィリアムズバーグを離れ、イギリス海軍の艦船に家族を移しました。

その後、ダンモア卿はロイヤリストの商人が多い港湾都市ノーフォークにイギリス海軍の小戦隊を集結させました。ノーフォークには愛国者に対する支持も存在しましたが、この小戦隊の威嚇によって愛国者側の動きは抑えられていました。

戦争の激化

1775年10月までに、ダンモア卿は反乱に対抗するための十分な軍事的支援を得ることができました。これに対し、愛国者側はウィリアムズバーグに多くの民兵を集結させました。イギリス軍は周辺郡部への襲撃を開始しましたが、ハンプトン近くでの小競り合いで小さなイギリス艦船が座礁し、愛国者側に捕獲されました。

この事件に対する報復として、ダンモア卿は戒厳令を宣言し、イギリス軍に協力する奴隷を解放すると約束しました。この宣言はロイヤリストと愛国者の両方に衝撃を与え、奴隷が武装して資産を奪うのではないかという懸念が生じました。しかし、ダンモア卿は奴隷を徴兵してエチオピア連隊を編成し、またロイヤリスト中隊を立ち上げました。これらの部隊はイギリス軍の正規部隊を補佐する役割を担いました。

12月初旬、愛国者部隊はグレートブリッジまで進軍し、ダンモア卿配下の兵士と対峙しました。12月9日、イギリス軍は愛国者部隊を撃退しようとしましたが、逆に完敗しました（グレートブリッジの戦い）。この敗戦後、イギリス軍はノーフォークまで後退し、ダンモア卿とその全軍はノーフォーク港に停泊するイギリス海軍艦船に引き揚げました。

ノーフォーク占領と焼き討ち

12月14日、愛国者部隊は約1,200名にまで増え、ノーフォークに移動しました。愛国者部隊の指揮を執ったハウ大佐は、イギリス軍に対する厳しい統制を敷きました。また、ハウ大佐はイギリス軍の攻撃を警戒しつつ、町の放棄も検討していました。

12月21日、イギリス海軍のHMSリバプールが物資を積んだ補給船を伴って到着しました。ダンモア卿は艦船を町の水際に並べて威嚇し、町の人々を脱出させました。12月24日、リバプール艦長は町に対して最後通告を送り、金銭での物資購入を提案しました。ハウ大佐はこれを拒否し、艦砲射撃に備えました。

1776年1月1日、イギリス艦隊はノーフォークの町に対する砲撃を開始しました。上陸部隊は食料を調達し、愛国者側の拠点となっていた建物に火を放ちました。愛国者部隊も抵抗しましたが、火災を止めようとはしませんでした。火は風にあおられて広がり、ロイヤリストの資産が愛国者部隊の焼き討ちと略奪の標的となりました。

愛国者部隊による焼き討ちと略奪は3日間続き、町の大部分が破壊されました。

戦後：破壊と責任

愛国者部隊が町に与えた損害は、イギリス軍による被害を大きく上回りました。破壊された建物の価値は12万ポンド（現在の価値に換算すると約1,290万ポンド）と見なされました。一方、イギリス軍艦砲射撃による被害は3,000ポンド（約32万ポンド）、ダンモア卿による被害は2,000ポンド（約22万ポンド）と見積もられました。

ハウ大佐はバージニア植民地議会に送った報告書で、愛国者部隊による焼き討ちについては言及せず、町の破壊を推奨しました。議会はこの計画を承認し、2月6日までに残っていた416の建物も破壊されました。愛国者部隊が焼き討ちに全面的に関わったことが認識されたのは1777年になってからのことでした。

ノーフォーク焼き討ちは、アメリカ独立戦争における複雑な側面を示す出来事でした。戦闘行為だけでなく、略奪や焼き討ちといった非人道的な行為も行われた事実を後世に伝えています。この事件は、戦争の悲劇と人間の残虐性を示す教訓として、歴史に刻まれています。

その後

愛国者部隊は町の破壊を終えた後、廃墟となった町から撤退し、近隣の町に拠点を築きました。チャールズ・リー将軍が南部方面軍の指揮を執り、ダンモア卿をポーツマス近郊の宿営地から追い出しました。ダンモア卿は1776年8月にバージニアを離れ、二度と戻ることはありませんでした。ノーフォーク市には、焼き討ちを記念する歴史銘板が設置されています。

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