ノール＝パ・ド・カレー地域圏

ノール＝パ・ド＝カレー地域圏：豊かな歴史と産業遺産を誇るフランス北部の地

かつてフランス北端に存在したノール＝パ・ド＝カレー地域圏は、ベルギーと国境を接する地理的特性から、古くから大陸交易の要衝として栄えてきました。その歴史は激動に満ち、第一次世界大戦においては主戦場となり、甚大な被害を受けました。しかし、西岸海洋性気候の恩恵を受け、フランス国内でも有数の平均日照時間と降水量に恵まれたこの地域は、豊かな自然と活気ある産業を育んできました。

地理と気候: 北緯50度付近という高緯度地域に位置しながらも、西岸海洋性気候の影響により、温暖で穏やかな気候に恵まれています。この恵まれた気候条件が、農業や工業の発展を後押ししました。面積は日本の新潟県に、人口は静岡県にほぼ匹敵する規模を誇ります。

産業: ノール＝パ・ド＝カレー地域圏は、フランスを代表する工業地帯として知られていました。豊富な鉄鉱石と石炭資源を基盤に、鉄鋼業、造船業、機械工業、石油化学工業などが発展。特にリールは、22万人の人口を抱える工業都市として、地域の中核を担っていました。自動車産業も盛んで、トヨタ自動車の工場もヴァランシエンヌに存在します。これらの産業は、近隣のロレーヌ地方やアルデンヌ地方と同様に、質の高い資源を背景に長きにわたってフランスの工業界を牽引してきました。しかし、近年は鉄鋼業や造船業の衰退により、産業構造の転換が求められています。

文化と住民: この地域圏の住民は、フランデレン系とワロン系の混血が主体で、一部地域ではフラマン語も使用されています。ダンケルクは第二次世界大戦の激戦地として知られますが、現在ではフランス有数の工業港として発展を遂げています。一方、カレーはイギリス海峡に面した港湾都市として、イギリスとの重要な玄関口を担っています。リールを中心とした都市圏は、パリ、リヨン、マルセイユに次ぐフランス第4位の規模を誇り、陸海両面における通商拠点として、古くから人口が集中していました。

世界遺産: ノール＝パ・ド＝カレー地域圏の中部と東部には、東西方向に広がる大規模な炭田地帯があります。この炭田地帯は、2012年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。登録された資産は108ヶ所に及び、その歴史的、文化的意義が国際的に認められています。登録基準は、(2)建築、技術、芸術などの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの、(4)人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、技術の集積、(6)顕著で普遍的な意義を有する出来事、伝統、思想などに直接または明白に関連するもの、とされています。

現在: 現在はピカルディ地域圏と合併し、オー＝ド＝フランス地域圏の一部となっています。かつての重工業中心地としての面影を残しつつ、新たな産業構造への転換、そして観光産業の活性化など、新たな発展を目指しています。若い世代の比率も高く（2005年時点で15歳未満人口比率は20.4%）、未来への希望を感じさせる地域でもあります。

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