ノー・リプライ:ビートルズの隠れた名曲
1964年、
ビートルズによって発表された楽曲「ノー・リプライ (No Reply)」は、彼らのアルバム『
ビートルズ・フォー・セール』と『Beatles '65』に収録された作品です。
レノン=マッカートニー名義ながら、主に
ジョン・レノンが作詞作曲を手掛けたこの曲は、レノンのソングライティングにおける成熟を示す重要な楽曲と評価されています。
制作秘話:タヒチから生まれたメロディー
「ノー・リプライ」の創作は、1964年5月、レノンが妻シンシア、バンドメイトの
ジョージ・ハリスン、そして
パティ・ボイドと共にタヒチで休暇を過ごしていた際に始まりました。この南国の楽園でのインスピレーションが、のちに名曲を生み出すきっかけとなったのです。ロンドンに戻ったレノンは、
ポール・マッカートニーの協力を得て楽曲を完成させました。
同年6月3日、
ビートルズはEMIレコーディング・スタジオでデモ音源を録音しました。この際、
リンゴ・スターは扁桃炎で入院中だったため参加できず、代わりにマッカートニーがドラムを担当したというエピソードが残されています。音楽評論家ジョン・C・ウィンは、このデモ音源について「レノンとマッカートニーが冗談を言いながら歌っていて、演奏は愉快なものだった」と評しています。
当初、このデモ音源はトミー・クイックリーに提供されましたが、クイックリーによるレコーディングは実現しませんでした。そのため、レノンとマッカートニーは、自ら9月末に改めてレコーディングを行うことになります。この経緯から、「ノー・リプライ」は
ビートルズ自身の作品として世に出ることになったのです。ちなみに、この曲は「
アイ・フィール・ファイン」が制作されるまでは、「ア・ハード・デイズ・ナイト」に続く
シングル候補にも挙げられていました。
楽曲の構成と歌詞:失恋の切ないメロディー
「ノー・リプライ」は、浮気をしているらしい恋人への電話がつながらない、男性の焦燥感を歌った曲です。レノン自身は、1989年の『プレイボーイ』誌のインタビューで、「『シルエッツ』の僕バージョン」と表現し、恋人との距離感と未練を歌ったと語っています。1972年のインタビューでは、この曲がストーリー性のある曲であると評されたというエピソードも残っています。
楽曲はCメジャーキーで構成され、2つのヴァース、ブリッジ、そして再びヴァースというシンプルな構造です。アコースティック
ギター、ベース、ドラムといったシンプルな楽器編成に加え、メンバー4人によるハンドクラップ、
ジョージ・マーティンの
ピアノ、そしてハリスンのエレクトリック
ギターがオーバーダビングされています。ヴァースのリズムは部分的にボサノヴァ調で、ブリッジやミドル16では標準的なロック調へと変化するなど、多彩な音楽性が特徴です。当初はレノンが高音部を歌う予定でしたが、喉の都合によりマッカートニーが担当することになりました。
評価と影響:時代を超えた名曲
音楽評論家イアン・マクドナルドは、著書『Revolution in the Head』で「ノー・リプライ」のダブルトラックボーカルを「驚くべきパワーを生み出した」と称賛し、魅力的な曲であると評しています。また、『モジョ』誌の「The 101 Greatest Beatles Songs」では63位にランクインするなど、高い評価を得ています。バーズのクリス・ヒルマンは、歌詞と演奏のリズムを絶賛し、「ロックの青写真ではないが、ロックの原点に立ち返るきっかけとなった曲」とコメントしています。
カバーバージョンとレガシー
「ノー・リプライ」は、ペーター・リパや
竹内まりやなど、多くのアーティストによってカバーされています。これらのカバーバージョンは、それぞれのアーティストの個性と解釈を加えつつ、この名曲の魅力を改めて伝えています。時代を超えて愛され続ける「ノー・リプライ」は、
ビートルズの歴史において重要な位置を占める楽曲であるといえるでしょう。
クレジット
ジョン・レノン:リードボーカル、アコースティック
ギター、ハンドクラップ
ポール・マッカートニー:ハーモニーボーカル、ベース、ハンドクラップ
ジョージ・ハリスン:アコースティック
ギター、エレクトリック
ギター、ハンドクラップ
リンゴ・スター:ドラム、ハンドクラップ
ジョージ・マーティン:プロデューサー、
ピアノ
ノーマン・スミス:エンジニア