ハイヌウェレ型神話

ハイヌウェレ型神話

ハイヌウェレ型神話とは、世界各地に存在する、殺された神の死体から作物が生まれるという食物起源神話の一種です。この名称は、ドイツの民俗学者アドルフ・エレガート・イェンゼンが、インドネシア・セラム島のウェマーレ族（ヴェマーレ族）の神話に登場する女神ハイヌウェレにちなんで名付けました。

ウェマーレ族のハイヌウェレ神話

セラム島に伝わる神話では、ココヤシの花から生まれたハイヌウェレは、様々な宝物を大便として排出する能力を持っていました。彼女が踊りながら村人に宝物を配った際、人々はその異様さに恐れをなし、彼女を生きたまま埋めて殺害します。ハイヌウェレの父親が掘り出した遺体を切り刻み、各地に埋めると、そこから様々な種類の芋が生え、人々の主食となりました。

イェンゼンは、ハイヌウェレのように、人々に知識を与えたり、自らがバラバラになることで何かを生み出す存在を、「デマ神」と名付けました。これは、ニューギニアのマリンド・アニム族の言語に由来する用語です。

神話の構造と広がり

ハイヌウェレ型神話は、東南アジア、オセアニア、南北アメリカ大陸など、芋類を主食とする民族に広く分布しています。イェンゼンは、これらの民族を原始的な作物栽培文化を持つ「古栽培民」と分類しました。

古栽培民の習俗との関連

ハイヌウェレ神話は、古栽培民に特徴的な首狩りや食人の儀礼の由来を説明するものと考えられています。これらの儀礼では、生贄の人間や動物を屠り、その肉を分け合って食べ、残りを畑に撒く習慣がありました。これは、神話と儀礼が密接に結びついている例と言えるでしょう。

マリンド・アニム族の事例

ニューギニアのマリンド・アニム族は、マヨ祭という祭りの最中に、「マヨ娘」と呼ばれる若い娘を全員で犯した上で殺害し、肉を食し、骨をココヤシの若木の側に埋めるという儀式を行っていました。この儀式は、若者たちにデマ神の時代を追体験させ、人間になる過程を完了させる意味合いを持っていました。

日本神話との関連

日本神話に登場するオオゲツヒメや保食神（ウケモチ）の説話にも、ハイヌウェレ型神話の要素が見られます。ただし、日本神話では、発生するのは宝物や芋類ではなく、五穀です。これは、南方起源の神話が日本に伝わる過程で、現地の作物の種類に合わせて変化したと考えられます。

縄文時代の土偶との関連

縄文時代に製作された土偶の多くが、バラバラにされたり、一部を欠損した状態で発見されています。これは、ハイヌウェレ型神話に則り、豊穣を願って意図的に埋められたものとする説があります。このことから、日本におけるハイヌウェレ型神話の起源は、記紀神話に記載されるよりもはるかに古く、縄文時代中期にまで遡る可能性が指摘されています。

竹取物語との類似性

ハイヌウェレ神話の、植物から生まれた娘を養女にして富豪になるくだりは、日本の竹取物語を想起させます。ハイヌウェレ神話では、ハイヌウェレが大便として財宝を出すのに対し、竹取物語では、竹の中から財宝が出てきます。竹取物語は中国から伝来した仏教説話が基になっていますが、話の一部分として、ハイヌウェレ型神話も融合されていると考えられます。

ハイヌウェレ型神話の普遍性

ハイヌウェレ型神話は、女性の「生命を生み出す力」を大地に分け与え、世界を再生させるという思想を表現していると言えます。この思想は、日本の鏡開きや、キリスト教の聖餐など、様々な宗教や文化に見られる普遍的なテーマです。

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