ハインリヒ・シュリーマン

ハインリヒ・シュリーマン：情熱と野望の考古学者

ハインリヒ・シュリーマン（1822年1月6日 - 1890年12月26日）は、ドイツ出身の考古学者であり、同時に成功した実業家でもありました。彼は、古代ギリシアの叙事詩『イーリアス』に登場する伝説の都市トロイアを発掘したことで、その名を知られています。しかし、彼の発掘方法や遺物の扱いをめぐっては多くの議論があり、その複雑な人物像は現在もさまざまな観点から語られています。

地中海考古学の父

シュリーマンは、トロイア遺跡の発掘を通じて地中海文明の遺跡を世に知らしめ、地中海考古学の発展に大きく貢献したことから、「地中海考古学の父」とも呼ばれています。彼が発掘した遺跡は、トロイアの存在を証明する根拠となりましたが、彼が特定したトロイアの地層は後年に否定されています。

発掘手法への批判

シュリーマンの発掘手法は、当時から「野蛮でずさん」と批判されていました。彼は、遺跡の地層を破壊し、発掘物の記録も適切に残さなかったため、その後の考古学的な研究を困難にしました。また、発掘された遺物を無断で持ち出すなどの行為も問題視されています。

多才な実業家

シュリーマンは、考古学者としてだけでなく、実業家としても才能を発揮しました。彼は10カ国語以上を操り、貿易商としてサンクトペテルブルクやカリフォルニアで成功を収めました。クリミア戦争の際には武器の密輸で巨万の富を得たとされています。彼の著書は複数の言語で書かれており、その内容は多岐に渡ります。

トロイア発掘への情熱

幼少の頃からホメロスの『イーリアス』に感銘を受けていたシュリーマンは、トロイアの発掘を生涯の夢としていました。彼は自著で、発掘資金を捻出するために事業に奔走したと述べていますが、実際には事業を畳んだ後に遺跡発掘を思いついたとされています。彼はトロイア発掘に強い情熱を持ち、その夢を実現するために全力を尽くしました。

日本訪問

1865年、シュリーマンは世界旅行中に日本を訪れました。当時の日本の様子を記した旅行記には、横浜から八王子への旅の様子が詳細に描かれています。彼は、日本の風景や文化に深い興味を示し、特に手織機をそなえた木造住宅や絹織物店が並ぶ街並みに感銘を受けたようです。

発掘の成果と論争

1870年、シュリーマンはトロイア遺跡の発掘を開始し、1873年には「プリアモスの財宝」を発見したと主張しました。しかし、後にこの財宝は、シュリーマンが主張したトロイア戦争時代のものではないことが判明しました。また、シュリーマンが発見したトロイアは、実際のトロイア戦争時代のものよりもはるか昔の遺跡であったことも明らかになりました。

それでも、シュリーマンのトロイア発掘は、古代ギリシア以前の文明の存在を証明する上で重要な役割を果たしました。彼は、1876年にミケーネで「アガメムノンのマスク」と呼ばれる金製の遺物も発見しており、古代文明の研究に大きく貢献しました。

その後の人生

シュリーマンは、晩年まで考古学研究に情熱を注ぎました。彼は建築家ヴィルヘルム・デルプフェルトの協力を得て、トロイアの発掘を続けました。また、ティリンスやクレタ島の発掘にも着手しましたが、1890年にナポリで急死し、その生涯を終えました。

まとめ

ハインリヒ・シュリーマンは、その功績と批判が入り混じる複雑な人物です。彼の発見は、古代文明の研究に大きな進歩をもたらしましたが、その一方で、発掘手法や遺物の扱いをめぐっては多くの批判があります。しかし、彼の情熱と行動力は、多くの人々に影響を与え、考古学の歴史に大きな足跡を残しました。

関連書籍

『シュリーマン自伝』各種訳
『シュリーマン旅行記 清国・日本』石井和子訳
エミール・ルートヴィヒ『シュリーマン トロイア発掘者の生涯』秋山英夫訳
キャロライン・ムアヘッド『トロイアの秘宝　その運命とシュリーマンの生涯』芝優子訳
* 大村幸弘『トロイアの真実　アナトリアの発掘現場からシュリーマンの実像を踏査する』

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